HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 10

やあやあ久しぶり。

今回は祝い事だよ、祝ってくれ。

こちらに生れ落ちて早数年、やっとある程度だけど動き回ったりするのに不自由しない程度に成長できたよ。
いや、急にレベルアップしましたみたいに育ったわけじゃないんだけれども。
今朝父上からお呼びがあってね。
ある程度なら邸内から出て動き回っても良いと許可が出たんだ。
まあ、屋敷から見える範囲くらいまでだけどね。
山に入ったりもっと遠くに行きたい場合は誰か大人に付いてきて貰わないと駄目、と。

なんかいつぞやの寅毒草食らい事件のせいで神経質になられてる気がしないでもないけど、今までに比べればましだから気にしない。
出歩くことを禁止されてないならやりたいこともやれるしね。


これでやっと長年?の悲願を達成することができる!
俺はいい加減固くて薄い布団とはおさらばしたいんだ。
十枚単位とかで重ねればどうにかなるんだろうけど、そんなに大量の布を一人で布団に使えるほど俺は恵まれていないんだ。
言ってて少し悲しいけど。
季節の変わり目とか、汗をかいて冷えたりするとすぐ熱を出してたから結構切実。
子供の体ってやわだよね。


意気揚々と布団の改良に乗り出した俺なんだけど、これって結構大変だった。
初めは藁にしようかなと思ったんだけどね。
けど、考えてみれば藁って他にも使い道が多いんだよね。
思いつくまま並べてみても、草鞋に蓑(みの)に笠、雪が降れば長靴みたいなのも藁で編むし、家の壁に塗り込んだり軒から食料を吊るして干すのにも使うし火を付けるのにも使う。
さらに言えば発酵させて堆肥とかにも使えるからこれを使っちゃうのはまずい、というか申し訳ない。
うちにもあるけどあれは使う分だし、譲って貰うにしても俺には払える対価もない。

色々とないない尽くしだ。
綿を入れれば良いとか、羽毛にすればいいじゃないかって思う?
けど考えてみてくれよ。
綿はまだこの時代まだ高価でそんなに量も入って来ない。
これに関しては、たしか南の方でしか栽培してなかったようなことを昔読んだような気がする。
羽毛にしたって、猟師に譲ってもらうにもたくさんあって余ってるならともかく、あれはあれで釣り針に付けたり工芸品に付けられたり使い道があるだろうし。
少量なら譲って貰えても大量にってなると難しい。
なんせ金を使わないでどうにかしないといけないんだから。

蓮の繊維を使うことも考えたんだけど、量を採るには沼なり探して船で取らないといけないだろうから却下した。
うっかり落ちたら洒落にならないし、そもそも船を運び込むのも大変だしそもそも船はどこから出してくるんだって気付いたから。
他にも繊維質の多そうな草とか探してみたんだけど、大量にとなると集めるのが大変だし、数日悩むことになった。


あれやこれやと候補をあげては、つついてみたり干してみたり茹でてみたり。
結果、悩みに悩んでるうちに笹というか竹を使ってみることにした。
さすがにでかく育ってる竹は無理だけど、細くて良くしなるそれほど背の高くならない竹があるだろ?
あれが笹なのか竹なのかは俺にはわからないけど。
けど、あれなら割とどこにでも生えてるから俺のおでかけ範囲で大量に採れるし。
季節関係なく生えてる上に繁殖力も強いから心置きなく使えるし。


というわけで竹で布団を作ることにしたよ。
けど結構大変だった。

当たり前だけど、綿として使うには空気を含ませないといけないから。
できるだけ細くしないといけないんだよな。
土岐にも手伝わせて刈り取って来た竹(笹?)を大鍋で煮込んでみたんだけど、あんまり柔らかくならなかった。
まあ期待はしてなかったからそれほど気にはしなかったけど。

あ、きちんと仕事の邪魔にならない時間に調理場は借りたよ。
さすがに家人の仕事の邪魔しちゃ悪いし。

茹でた竹は茹でる前と比べて若干柔らかくなったようなならないような、そんな微妙な状態だった。
というか、この時思い出したんだけど竹って水筒の代わりに使う位水弾くんだっけ。
皮剥いておけば良かった。

改めて皮を内と外で剥いて、あとは臼を引っ張り出してきて土岐に付かせる。
がんばれ土岐、その動きは背筋を鍛えて武術の鍛錬になるんだぞとか思いつつ、俺はある程度砕けた物から取り出して大きめの石の間に挟みこんでさらにひき潰す。

途中で土岐が根を上げて、呆れた顔のおじさんが代わってくれたのはご愛嬌。
土岐も磨り潰し組に取り込んで作業を進めたけど、これが結構時間がかかる。
当たり前だけど、元が硬いものを繊維状になるまで砕くってのは時間と手間が掛かるもんだ。
当然一日じゃ終わらなくて、数日掛かってやっと満足する量をほぐすことができた。

ちなみに。
後半は武術の鍛錬になるとか煽てて寅に臼を付かせたけど、体力馬鹿だからか子供特有の無限体力か、おじさんよりがんばってくれた。


ここまで潰すと結構糸と言うか紐に見えなくもないって位になったけど、やっぱり硬かったからさらに煮込んでみた。
竹を解すには塩か?灰汁か?と筍繋がりで悩んでみたけど、どっちかわからなかったからとりあえず両方で二度煮込むことにしたよ。

意外や意外、手間は掛かったけど使えそうな感じにできあがりました。
綿って言うとおこがましいけど、布の間に空気の層を作れればいいんだからまあ良いと思う。
贅沢は言えないんだから気にしたらいけないと思うんだ。
さすがに元が竹なだけあって、綿とか羊の毛みたいに絡まってもこもこしてるやつには負けるだろうけど、それでもぺったんこな今の布団よりは暖かいに違いない。

最近影が薄かったけど、実は身の回りの世話をしてくれてた乳母に頼んで用意して貰った袋に竹糸を解しながら、なおかつ絡まるようにかき混ぜながら詰め込んだら完成である。
ちなみに寝潰したり季節で量の調節ができるように口は紐で結んで閉じるようになってる。

かなり時間が掛かったけど、竹布団の完成だ。
これで熱を出すことも減るだろう、これからはもっと快適に人生過ごすんだ!


上機嫌で竹布団に包まって寝た俺は次の日、布の中でずれて薄い所と厚い所が凄い高低差になってる愛しの竹布団と遭遇した。
考えてみればずれるのは当たり前か。
朝から中身の入れ直しをして要所をずれないように糸で縫い止めて貰った。

昨日で完成したつもりだったから朝から少し物悲しかったよ。

ああ、それと寅にもねだられてもう一つ作ることになってしまった。
次は座布団を作るつもりだったのに。
丸いゴザみたいなやつは夏は固いし冬は寒いんだよな。

まだまだ楽のできる日々は遠い。



追伸、文字が読めるようになりました。
読めるって言ってもひらがながほとんどだけど。
ちなみにまだ字は汚いです。
どうやって崩すのが美しいのか基準がわかりません。
適当に崩したら汚いって言われたよ。

落ち着いたらまた連絡します。

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