HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 19

やあやあ久しぶり。

環境が変わったからか、片づけの疲れか、熱を出したよ、見舞ってくれ。

せっかくふかふか布団を手に入れて快適な睡眠時間を過ごせると思ってたのに。
子供の体って不便だよね。
これは早めに自分で薬を作れるようになった方がいいかも。

薬湯ってまずいんだよ、粉っぽかったり青臭かったり純粋に苦かったり。
生じゃないと効果のない薬草もあるって聞いたけど、せめて味にも頓着しようよ。


毎度のことながら、味覚破壊を起こしそうな味の薬湯に苛まれながら嘆いてみた。

けど、ここでも出てくる金銭問題。
砂糖って高価なんだよ。
だからたまーに口に入る甘味類もかなり糖分控えめである。
それほど甘くないから甘いのが苦手な人でも大丈夫、なんてバレンタインのキャッチコピーじゃあるまいし。
俺はいい加減きっちり甘いものが食べたい。

薬だって糖衣が良い。
せめて甘くしてくれ、と思う。
だが我が家にはそんな贅沢できる余裕はないのは、悲しいことに外見と中身が違う俺だからこそしっかり理解している。
だからこそ嫌々ながらも生臭い液体を飲んでいるのだ。

早く熱が下がってくれればいいんだけど。

これでは風呂の件は、負担を掛けるのを承知でこちらで入るしかない気がする。
また熱を出して薬湯三昧になるのは、激しく遠慮したい。



つらつらと考え事をしながら大人しくしていると、部屋の戸が開いて青年が入ってきた。
今朝方、父上に連れられて俺の元を訪れた彼は、こちらの離れで専属で力仕事を担当する為に俺に付けられたらしい。

乳母は俺の食事を用意しているし、土岐はうつるといけないので強制退去である。
寅はまた俺の部屋に雑草を放り込んでいった。
元気なのは良い事だが、相変わらず薬草と雑草の区別が付かないらしい。
その草じゃなくて、葉の裏が白い方が薬草である。


人が居ないので、必然的に彼が俺の世話を焼いてくれている。

母屋で普通に働くのとこちらだけ受け持つ代わりに一人なのと、どちらが大変なのか俺にはわからないが、負担を掛けるようなら申し訳ない。

俺の額に乗せられていた布を、その手に持って入ってきた桶の中で絞って乗せ直してくれる。
ああ、こっちで風呂入るとなると、お前の仕事になるよな、大変だよな、とか考えるけど、まとまりに欠ける上に力が入らない。

ああ、俺に現代の薬の知識とかがあったなら今ごろ熱に苦しむこともなく、苦い薬湯で余計に気分が悪くなったりすることもなかったんだろうか。


首筋に浮かんだ汗を丁寧に拭き取ってくれる手を感じながら、せめて、と辛くなったら俺に言うように、できるだけ心健やかに過ごしてくれるようにと、熱で言葉が散らされてしまう前にそれだけ伝えた。


ああ、不甲斐無い。
人に世話を掛けるだけの生活がこれほど心苦しいとは。
せめて俺にボーナスが出せればいいのに。



使えるべき人間が未だに自分の名前も覚えてないだろうことに気付きもせず、彼は細々しく世話を焼いてくれた。


落ち着いたらまた連絡します。

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