HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 20

やあやあ久しぶり。

やっと青年の名前を覚えたよ、褒めてくれ。

褒められることじゃないなんて言わないでくれよ、始めに紹介された時はすでに熱でやられてたんだから。
聞いたような気もしたんだけど、そこまで考えてられる状態じゃなかったんだ。

彼の名前は喜一(きいち)君。
熱も下がったことだし、これからよろしく。

今まで屋敷内で見かけた記憶がないんだけど、わざわざ新しく雇ったんだろうか?
そんなに余裕があるのかな、我が家って。
まあ俺にはどうにもできないし、最低維持しないといけない家格とかいうのもよくわからないから口出ししないけどね。


そして彼はかなり器用である。
なぜかというと、俺は寝込んでて知らなかったが、長年使用しなかったからか釜戸が割れたらしい。
というか火を入れたら罅が入ったというか。

わざわざ母屋の釜戸まで行かないといけない所だったのを直してくれたのが喜一君だ。
もう引っ越してしまったから仕方ないけど、老朽化してるか確認してから引越しの要請をしてくれよ、父上。


予想外に器用だった喜一君が俺専属になったことはかなり嬉しい。
俺はそんなに器用じゃないし、力もないから。
というか、例えば金槌とかがあっても俺の手じゃ使いこなせないだろう。

土岐は特別器用なわけじゃないし、乳母はもちろんである。
まったく、喜一君に感謝だ。

調子に乗ってスリッパとサンダルを作るのを手伝って貰った。

屋敷の裏手に当たるせいで、離れの気温は母屋よりやや低いのだ。
この時代はまだ室内全部に畳を敷き詰めて生活しているわけじゃない。
板間も結構あるのだ。
ついでに言うと足元は基本裸足である。

何が言いたいのかというと、足元が寒いのである。
現代と違って温暖化とか夢のまた夢だし、緑が非常に多いので余計に寒いのだ。
多分植物から発生する湿度があるから余計に涼しいのだと思う。
真夏でもない限りは朝晩を中心としてひんやり。

ちなみにスリッパは藁を編んだ表面を布で布で覆ったもの。

室内はともかく、廊下は板張りなので床付近は夏は湿気でべたつき冬は寒い。
俺も寒いが、乳母も寒い。
いつの時代でも女性が冷え性なのは変わらないだろうし。
ついでに言うと草鞋や下駄なんかの、鼻緒がある履物だと少し外に出たい時に若干面倒だったのもある。

外履き用のサンダルはそのまんま、つっかけである。
ついでに作った物だが、外出したり母屋まで行くならともかく、離れの周りに降りる程度なら一番楽なのだ。
正直に言うと、昔時代劇なんかで見た、廊下からすっと下履きを履いて外に散策に出るシーン、あれは実際にやろうとすると無理である。
きっちりと足に密着させて履く物なのでそんなにすぐ履けるものではない。
手は使わなくても、足元でもごもご動いてたりするもんである。

これは俺が欲しくて作った物だが、意外に乳母が喜んだ。
土間に降りるのに楽だそうだ。
全員の分のスリッパと突っ掛けが仲良く並んでいるのは、家族みたいで面白い。
屋敷の中は広すぎて、家庭と言うにはちょっと違う気がするし。

そんなこんなで、離れでの生活はわりと楽しい物になった。

そうそう、最近猫が近くに住み着いたらしいんだ。
まだ姿は見てないけど、餌を置いておくといつのまにか無くなってるし。
なんで猫かって言うと俺の希望だけどね。
犬でも良いけど、猫の方が好きかな?
狐や狸は餌付けされないと思う。
だってこの時代って狸汁とかありそうじゃないか。
俺は食いたくないけど。
早く姿が見たいなあ。
飼いたいって言ったら飼ってもいいのかね?


落ち着いたらまた連絡します。

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