HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 21

やあやあ久しぶり。

母上の扇が怖いので最近は大人しく字の練習をしてるよ、労わってくれ。

字の練習って言っても、写経に興味はないし、古典はどちらかというと音読で覚える方だから童話なんかを思い出しつつ書き出してる。
というか、写経や古典類で貴重な紙を埋めるのはもったいない。

喜ぶのは寅ばかりと思うなかれ。
土岐や乳母、なぜか喜一君にも人気である。

娯楽が少ないんだろうか。

ちょっと魔が差して離れ合唱団を結成してみた。
俺と乳母がソプラノ、土岐はアルトで喜一君はテノールである。
全員で歌うと肺活量の問題でアルトが負け気味だが、案外気に入って貰えたようだ。


ちなみに、
カエルの歌を歌ったら寅が出てきた。
喜一君に荒城の月を仕込んでたら、その晩呼び出されて父上の酒の肴にされた。
調子に乗って魚の歌を歌っていたら母上から死ぬほど塩辛い干物を押し付けられた。


嫌がらせなのか親切なのか判断に苦しむ。

こっちに移り住んで乳母達と同じ内容の食事を取るようになって気付いたんだが、俺が今まで食べてたのは俺の体調に配慮した薄味の膳だったらしい。
つまりは多分子供仕様ってことだと思うんだが。

保存技術も未熟な上に、運動量も現代とは桁違いの生活を送っているせいか、それとも味噌汁もおかずの一品として食べるせいなのかはわからないが、とにかくこの時代の味付けは塩辛かったのだ。

初めてそれを出された時には白湯を貰ってお茶漬けの状態に薄めて食べたし、以降は頼み込んで薄味な物を作って貰っている。

そんなこんなで、最近の悩みは食事の味と鮮度と栄養量だったりする。
正直に言って、字の練習以外は大抵は悩んでいる。
考えていないのは気晴らしに合唱団ごっこをしている時くらいである。

味と健康を考えれば薄味にした方が良い。
けれど、どうしても塩漬けになっている物なんかは塩がないと腐敗してしまうし、一度水で戻してもいいがそれだと今度は栄養と味が抜けてしまいそうだ。
栄養量に関しても問題は結構ある。
味噌汁に味噌を多く入れるってことはそれだけ塩以外の栄養も取れるってことだ。
味噌を減らしたら今度はそっちの栄養が足りなくなる可能性がある。
とりあえずしばらくは問題ないけど、あまりこのまま解決せずに薄味を続けると今度は栄養不足等の問題が起きてくるかも知れない。

できるだけ早急な解決が必要である。




うんうん唸りながら庭を歩いていると、最近餌付けた猫の餌場に辿り着いた。

今日こそは姿が見れないだろうかとゆっくりと低姿勢で近づいていくと、低木の奥に黒い物体がかすかに見える。
その奥は屋敷の壁があるだけなのだが、よくそこから音がするので奥に猫の通り道でもあるんじゃないかと思っている。
低木の根元まで着ても、黒い影は動かない。

いよいよこれは、やっと懐いてくれたのだろうか。
驚かせてはまずいのでしばらくそこで待ってみたが反応はない。

もしや怪我でもしているのだろうか?
だとしたら、きちんと手当てだけでもしてやらないと化膿でもしたらかわいそうである。
幸いにして、薬草は少し前に採取した物や見本として薬師に手持ちの薬と交換して貰った物が結構ある。

そこまで考えて、乾燥しているとはいえ、使用期限はいつまでだろうかという考えに思い至った。


考えても答えは出ない。
生で使用するものは枯れる前でないとまずいが、乾燥したものになるとさっぱりである。
すぐにどうこうではないだろうが、定期的に入れ替わるくらいのサイクルを心がけた方が良さそうだ。
ここは怪我をした猫に存分に薬草を提供してやることに内心で決定を下すと、低木の根元を掻き分けて奥に進むことにした。







低木の根元、壁に開いた穴が見えるその位置には、確かに傷だらけの動物が居た。


カサついた黒い毛並みの痩せ細った子供であったが。

自慢にならないが、捨て猫や捨て犬を見捨てて帰れたことは一度もない。
そこで見捨てて、あとからどうなっただろうかと心配するのが嫌なら、結局は拾うしかないのだ。


落ち着いたらまた連絡します。

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