HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 25

やあやあ久しぶり。

なぜか父上から小遣いを貰ったよ、これはなんだろうね?

俺が気兼ねなく買い物を出来る様にってこと?
それともこの金額以上使うなとか、わざわざ自分の所まで頼みに来なくても良いってこと?
なんか素直に受け取っていいのか、面倒になって放り出されたのか微妙な所である。


悩んでたら父上から手紙が来た。

名目上とはいえ少年の後見なんだから、きちんと責任持ってお世話しなさいって。
犬を拾ってきた時の親の台詞みたいだね。
普通はその台詞は母親が言うんだろうけど、俺の母上ってあれだし。
むしろ汚いから捨てて来なさいって、そっちの台詞を口に出すだろうね。

あれかな、お小遣いじゃなくて世話を見るための必要経費ってこと?
といっても食事の量が少し増えた位で、他には特にお金が掛かってるとかないんだけど。
丁度良いサイズの服がなかったから、俺用に取っておいてあった寅のお下がりを着せてたんだけど、それが悪かったのかな?
彦は遠慮しまくってたけど、でも土岐の服を取っちゃうのも可哀想だったし。

丁度良いサイズの服があったし、良いと思ったんだけどなあ。
俺はまだ体が小さくて着れないしね。
それとも彦は俺の保護下なので、他の人間とは衣食とかが別計算なんだろうか?
でも、せっかく貰ったんだし、彦の服と合わせて皆の生活を向上させるのは悪くないよな。


何と言っても最近は彦がとても元気なんだ、喜ばしいね。
といっても、まだ同年代の子供に比べれば痩せている方ではあるんだけどね。
彦の体調を整えるのも、拾った俺の責任である。






丁度良いから、いっそのこと彦を引き連れて買出しに出ることにした。
いつも山にしか行かなかったしね。
買出しに行こうかと考えてから気付いたよ。
そういえば最近は、薬草を取りに行くか離れにいるかのどちらかだけだった。
こちらだけで生活できるから、いつも同じ人間としか会わないし。
これじゃ軽く引きこもりだ。
俺が生活に必要な物って、乳母とか喜一君が先に揃えてくれるから買い物の必要がなかったんだよ。


乳母に頼んで用意してもらった服に着替えて出かける準備をする。
意識してみれば普段着ている着物より、少しだけ布が粗い気がする。
夏なんかはむしろこっちのほうが涼しそうなんだけど、乳母に言ったら他にも用意して貰えるだろうか。

ちなみにメンバーは俺と彦、あと案内に喜一君だ。
さすがに子供だけじゃ町は、いや、町も危ないし。
もちろん山も危ない。
こう考えると屋敷内以外はわりとどこも危ないな。
思わず苦笑してしまった。

とにかく、喜一君が一番引率として最適だし、人数が多すぎると動くのが大変なので土岐は今日は留守番だ。
ちょっと恨みがましそうな顔をされてしまったが、帰りに土産でも買ってきてやろう。


ここの所雨が続いていて地面がぬかるんでいるので、いつも山菜取りに行く時使っている取り外し式の滑り止めも持っていくことにする。
もともとは朝方しか取れない薬草を取りに行く時に作ったものなのだが、意外に重宝している。
単に下駄の歯の部分と登山用の滑り止めを合わせた物なんだが、朝露で滑る山を登る時に便利だ。
少し上げ底気味になっているのは裾が朝露に濡れない様にしたからだが、雨上がりなどに外に出なければならない時にも有効だった。

何と言っても、地面に付く面積が少ないから泥が跳ねずらい。
だから足も裾も汚れずに済む。
洗濯物を増やすと洗うのが大変だし。
手を出させて貰えない代わりに乳母の仕事を増やすことは極力避けたいのだ。





屋敷は町から少し離れた所にある。
普通は主君のいる城の周りに屋敷を構えるものだったと思うんだが、我が家はそんなことはない。
なぜかというと現代で言う首都、つまり城下町ではないのだ。
基準がないのでどこに屋敷を構えてもいいのだと思うが、うちの家はなぜか山すそに屋敷を構えている。

山が重要というか、元々が水運で財を成した家柄だからだろう。
今よりもっとこの周辺が開かれていなかった時に付近の材木を川を利用して運んでいたらしい。
その家業のおかげで財と力を得て今は武士に名を連ねているらしいが、付近の開墾が広がり、主要な特産物が林業から離れた今になっては、武士になってしまったおかげで身動きがとれず子孫が落ちぶれている。
かといって再び財を成そうとも、内職とかならともかく、体面やらで大々的に商いなんてできない。
まあ、そんなわけで我が家は川の傍にある。
川の源流がすぐ裏の山なので必然的に町から遠ざかるのだ。


この周辺に広がる町は、我が家と同じで過去に林業によって栄えたが今となってはそこまでの勢いがあるものでもなく。
どちらかと言うとこじんまりとした印象しかない物になっている。
町の規模が大きすぎて賑わい具合が噛み合っていないというか。
あえて特徴を述べれば、昔は材木を運ぶのに重宝したであろう広い道と豊富な水量からなる水路だろうか?
どちらも特産物の切り替えをせざるを得なくなってからは意味のない、無用の長物と成り果てたが。
苦し紛れに褒めようとすれば、閑静だが移動はしやすそうである、という所か。

美辞麗句を取り払って正直に言うと、町の規模に対して人口は控えめで、広い道は物悲しさを助長させている。
別にここに居たのは兵ではないが、まさに夢の跡という感じである。
賑わいがないわけでもなく、活気がないわけでもないのだが。
はっきり言うと、貫禄負けと言うか。
人間で例えるなら着物負けである。
入れ物が立派過ぎたのだ。


割と楽しみにして出かけてきたのだが、微妙に気をそがれてしまった。
馬だと思って近づいたら、リャマだった、みたいな感じだ。


その日はいくつか彦の着物を見繕って、土岐と寅に瓜を買って帰った。
季節的な物もあるかもしれないけど、一番ましな甘そうなものが瓜って・・・。



落ち着いたらまた連絡します。

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