HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 27

やあやあ久しぶり。

なんか強制的に片棒を担がされたよ、慰めてくれ。

結局、押しの強い店主にしっかりと捕まえられ、新商売を手伝わされることになってしまった。
別に俺個人としては、わりと時間の余裕はあるので構わないのだが。

いかんせん、俺はこれでも武家の次男、若様なのである。

以前、薬の下げ渡しの相談をした時に父上に言われたように俺が直接商売に手を出すわけにはいかないのだ。
しかし、いくら断ろうとしても商売の気配を掴んだ店主は引き下がらない。
仕舞いには店の人間を使い、俺に初めに絡んできた職人を探し出して実生産の話まで始めてしまった。
目の前の二つの良い笑顔と、未だ体験したことのない父上の怒りの声、身に覚えがありすぎる母上の扇に挟まれて進退窮まる。
そちらで勝手に商売をしてくれても構わないとさえ言ったのだが、何か商売人の拘りがあるらしく聞き入れて貰えない。

結果として俺は追及の手を別に逸らすことにしたのである。



いわく、あれは自分の友人であり、前回一緒に来店した彦の考えたものである、と。


屋敷を出る前に変えた着物がこれほど心強かったことは後にも先にもなかった。
悪目立ちすることを避ける為に、町中で目立たない着物を選んで貰っていたのだ。
俺が武家の子供であることはおそらくばれてはいない。
元々、山を除けば邸内から外には出ていなかったし、ずいぶん前から離れに移っている。
俺の容姿はそれほど知られていないだろう。
単なる町人の子供だと思われていると思う。

「家」の保護下ではなく、「白兎」の保護下にある彦は直接的には家とは関係がない。
あるのは俺個人との繋がりだけだ。
それも保護というだけの関係なので、実は彼が屋敷を出るのも商売をするのも阻むものはない。
だからこそ、俺は矛先の回避に彦を選んだのである。
今回ばかりは、前回彦を連れて出かけたことに感謝した。
そもそもそのせいで捕まっているということは、脇に置いておく事にするが。

これが喜一君や土岐になると、俺の「守役」であり「家人」となるのでアウトだ。
俺に繋がってしまうことになる。
申し訳ないが、彦に槍玉にあげられて貰うことにした。



店主と職人のコンビは自分の目的が達せられるならば、俺でも彦でも構わなかったらしい。
彦への繋ぎの確約を俺から取ると、満面の笑顔で俺を解放してくれた。

帰り道では、随分と疲れた顔をしていたのか喜一君が慰めてくれた。


屋敷に帰ってから、彦を呼んで事の経緯を話し、侘びを入れると彼はあっさりと名義貸しを了承してくれた。
店主や職人と繋ぎを持ったり、発案者の振りをしないといけないと言うのに彦は楽しそうだ。
俺はというと、これから考えなければいけない「発案者:彦」の設定やら、店主達との取り決めなどを考えて少しげんなりしていた。

そして、今更聞かされた新事実。
俺が彦の服を買い求めたのは呉服屋。
普通の町人は太物屋で生地を買うものらしい。

どう違うのかというと呉服屋は絹を扱い、太物屋は麻や木綿なんかを扱うらしい。
つまりは俺が彦に用意した着物は、普通の町人からすれば贅沢な物だったらしい。
俺も同じ物を着せられていたので気付かなかった。
普段は着物の素材なんて気に掛けないし。

他に比重を置いた方が良い所が絶対あると思う。
なんで普段の生活はわりと質素なのに着物は絹なんだ。
これも家の家格を維持する為とかいうあれなんだろうか。

今から考えれば、これから店主達とやり取りをする彦に箔を付ける為に最適だった気もしないではない。
おそらく彦は裕福な町人の家の子供だと思われているだろう。
だがそもそも呉服屋に行かなければ、店主達に捕まることもなかったかもしれないと思うと胸中複雑である。

まさか素材毎に扱う店が違うなんて思ってもいなかった。
だから呉服屋に案内してくれるように頼んだ時、喜一君が不思議そうな顔をしたのか。
これも、俺が現代の記憶と常識を持ち合わせている為の弊害である。

ちなみに、心配していた父上の反応だが、静かに話を聞いていたかと思うとため息一つ。
苦笑してお許しを頂けた。
どうにか家との関連性を誤魔化せたからかね?
なんにせよ、怒られずに済んで良かった。


落ち着いたらまた連絡します。

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