HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 31

やあやあ久しぶり。

最近高草履が流行ってます、祝ってくれ。


結構需要は見込めると思っていたんだが、元々の高草履の機能、つまりは足や着物が汚れないって所がウケたみたいだ。
この時代、着物ってそんなに頻繁に洗う物じゃないし、洗うと痛みやすい。
頻繁に洗うことを想定してもいないから、余計だ。
豪華な生地の着物を多く持っている人間ほど、高草履が必要になる。
おまけにそういう人間ほど、外見に気を使う。
必然的に金がある人間は、着物に合わせて色々な細工の高草履を揃えるのだ。

だが、別に金持ち向けの物ってわけでもない。
普通の町民だって肌着以外はそれほど洗わないし、生地が弱くなるからあまり洗いたくない。
この時代、何度も手直しして着物だったり布団だったり使い続けるのだ。
最終的に雑巾になるまで大事に使われる。

そんな人には少し安めの素材の高草履がお勧めです。
俺が宣伝してるわけじゃないけど。




やっぱり初めに食い付いたのは裕福な町人層だったみたいだ。
武家の人間はどの程度浸透してるのか謎だったけど、この前母上が取り寄せてるって聞いた。
父上には試作品として店主から貰った物を渡しておいた。
案外気に入ってくれてるみたいだ。

母上に俺が高草履の商売に関わってるって知れたら、また扇で小突かれるだろうな。
小突かれるどころか、扇が飛んでくるかも知れない。


まあ、母上のことを聞いた時に父上に確認してみたけど、案外武家にも広まってるらしい。
武家の人間の場合は、例えば、どちらかに出向いた時に裾が汚れていたりすると失礼だということもあるし。
土を付けて人前に晒される事を良しとしない。
そういう体面を重視するからだそうだ。
特に、我が家みたいに質素な生活をしている場合も、着物だけは見栄で高い物を着ていたりするし。

何はともあれ、裕福層や上流の人間がこぞって使ってくれる上にうれしい機能付きだ。
憧れやステータスとして持つのにプラスして、生活必需品としても広まりをみせている。

おかげで俺の、というか「発案者:彦」の財政状況は結構潤っている。
と言っても、離れでの食事改善に使用しているので一気にお殿様なわけではないが。
その証拠に、自分できちんと管理するようにって父上からお達しが来てる。
子供に管理させる程度の金額だ。
俺からしたら結構な金額でも、「家」自体を管理する父上からしたらそれほどでもないんだろう。

ちなみに、少なくとも高草履で収入がある間は小遣いは断ることにした。
だって収入があるのに小遣いってどうよ。

それでも時たま贅沢をするくらいの余裕はある。


そしてその金で俺は、念願の卵を手に入れた!

呉服屋の店主に頼んで食材を取引してる人に繋げて貰ったのだ。
やっぱり毎日産んでくれるものでもない為、仕入れにばらつきがあるみたいだが。
とりあえずマヨネーズを作る分には少量でも構わない。
そもそも離れにはそれほど人数がいるわけでもないしな。




いそいそと屋敷に帰ると、俺はさっそく調理場に篭った。
泡だて器はないので喜一君に作って貰った茶筅もどきで代用する。

マヨネーズの作り方は意外と簡単である。
卵に塩と酢を混ぜて、あとは分離しないように少しずつ油を根気強く混ぜていくだけである。

ちなみに油を使った料理は、庶民にもお馴染みの家庭の味というわけではないらしい。
しかし、上流の家や精進料理なんかで使われる。
野菜を素揚げにしたりとかするそうだ。
まあ、油を使ってカロリーを摂っておかないと、ただでさえ栄養の偏りがちなこの時代なのだ。
精進料理だけでは栄養不足は必至である。

関係ない話だが、町中で庶民の暮らす家の立ち並ぶ辺りに近寄ると、かなりきつい臭いの残り香がする。
菜種油や胡麻油は値段が高いので、彼らは魚油を使って明かりをとっているのだ。
だが、魚からできた油だけあってかなり臭い。

もちろん我が家は、今度ばかりはありがたい「家格」維持の為に臭いのしない油を使って明かりにしている。
胡麻の香りではないのでおそらく菜種油である。
食べられるのはわかっているので、問題なくそれを流用させて貰う事にする。


上機嫌で茶筅を動かしながら、我が家の見栄張りに初めて感謝した。
材料が揃っているにこしたことはない。

出来上がったつややかな質感のマヨネーズを見下ろして、俺は久々に会心の笑みを漏らした。
今日からさらに食事環境が豪華になるのである。
今から笑いが止まらない。


落ち着いたらまた連絡します。

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