HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 番外 おみつ

おや、おみつじゃないか。

久しぶりだね。
お屋敷の仕事には慣れたのかい?

え?もう慣れたって?
それは頼もしいね。
なんたって最近何かと羽振りの良いお屋敷だ。
あちらで覚えがめでたければ、何かとおこぼれにも預かれるってもんだよ。
あちらのお屋敷は竹布団を作り出してから、随分と羽振りが良くなったって話だからねえ。

しっかし、たいしたもんだね。
そこらに生えてる竹からあんなに暖かい物を作っちまうなんて。
まったく、ご当主様々だよ。
まあ、お抱えの職人達に自由に作らせて、代わりに上がりを取るってんだから上手い事考え付いたよねえ。

お武家様は商売に手を出せないって言うけど、これだけ利益が入ってるのに商売はしてないっていうのは不思議だねえ。
頭の良い方の考えることは、下の人間にはわからないさ。

でも、上納を納めなくちゃいけなくても、あれだけ良い物を教えてくれただけで私らは満足だ。
おかげで、ちょっと涼しくなっても子供らが風邪をひくことが少なくなったよ。
たまーに寝相の悪い餓鬼共が腹を壊す程度さ。



なんでも、若様が考えてくだすったんだって?
私も時折、遠目でお見掛けすることもあったけど、やんちゃな寅若様があんなにすごい物を作って下さったなんて。
人は見かけに寄らないねえ。

なによ、そのおかしな顔は。
喉に骨が突っかかって取れないみたいな顔してるよ。

え?
その話になるとみんな余所余所しいって?

そりゃあ、お武家の若様なんだ、そんなことで褒めても周りも複雑だろうよ。
お武家の若様って言ったら、本来武芸の出来とか、人柄とかを褒めるもんだろうさ。
そんなんだから、周りの人達も困った顔するのさ。
しっかりおしよ。
そんなんじゃ、これから上手い事やっていけないよ。


そういえば、ここの所とんと話を聞かないけど、あそこのお屋敷には二の若様が居るんじゃなかったかしら?
何年か前にお祝いの振る舞いを戴いた気がするんだけど。
最近はまったく話を聞かないねえ。

離れ?
なんでそんな所に?

ああ、そうなのかい。
ご病弱ねえ。
そうかいそうかい、それだけ頻繁に床につかれるくらいじゃあ、療養させるしかないだろうねえ。
あんたが見たことないのも仕方ないよ。
お武家様って言うのは、なんでも体面が大事だからねえ。

そんなにご病弱な若様なんて、表に出したくても出せないんだろうよ。
哀れなことだね。

え?
二の若様が気の毒だって?
そうだねえ。
でも、こればっかりは仕方ないさ。
それに、案外これで良かったのかも知れないよ。

あそこの若様方はお母上が違うだろ?
これで、うっかり二の若様の出来が良かったりなんかしたら、それこそ気の毒だ。
いつの世でも、母親ってのは血を分けた子供が可愛いからねえ。
案外、今みたいに仕舞い込まれて出てこない方が二の若様にとっては幸せなんじゃないかい?

ああ、そうだよ。
これはこれで上手くいってるんだ、下手に同情しても何にもなりゃしないさ。
仏さんか神さんか、誰が考えたか知らないが、上手い事なってるもんだねえ。




おや、彦様だ。
え?
ああ、あんたはお屋敷で働いてるから知らないのか。
彦様ってのは、最近流行の高草履を売ってる呉服屋に出入りしてる子供でね。
詳しくは知らないが、どこかの商人の子で、今はこの辺りの家に預けられて暮らしてるそうだよ。
まあその辺は、複雑な事情ってもんがあるんだろうさ。
詮索おしでないよ?

けど、さすがは商人の子だね。
なんでも、才を買われて呉服屋の主人の所にも出入りしてるって話だよ。
血は争えないねえ。

隣の子?
ああ、あの子はいつも一緒にいるんだが、知らないねえ。
預けられてる家の子かなんかじゃないのかい?
ほら、お供の人間も危なっかしそうにみてるし、珍しがって付いてきてるだけじゃないのかね。

名前は、えーと、ほら。
なんだっけか。
三だか四だか・・・。

ああ、思い出した。
四郎様って呼ばれてたよ。
しっかし、もう少し良い名前は思いつかなかったのかね。
どうせ四男だから四郎だろう?
せめて頭にもう一文字付けてやるって甲斐性がなかったのかね。

いくら他に跡取りがいても、名前くらいはちゃんと考えてやるのが親ってもんだろ。
あんたもそう思うだろう?


ああ、もうこんな時間だ。
長い事引き留めて悪かったね。
まああんたも、せいぜい頑張って出世するんだね。
それじゃあ。

本編 38へ

表紙へもどる
分かれ道へ戻る
保管庫へ戻る