HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 38

やあやあ久しぶり。

こっちは相変わらず忙しいよ、手伝ってくれ。


一気に大家族の父親になった気分だ。
相変わらず賑やかにやっている。
必要に駆られて始めた薬草の採取も、子供達も自分の為になることだと理解しているし、結構楽しんでるみたいだ。
最近はやっと大人数での生活にも慣れて、気持ちに余裕が出てきた所だよ。
と言っても、余裕があるのは気持ちだけで、時間や金銭的にはそれほど余裕はないんだけどね。

やっぱり同じことを教えてはいても、個人差は出てくる。
薬草を見つけるのがすごく上手い子がいれば、薬として加工するのが上手い子もいる。
中には喜一君にくっついて、暇があれば何かしら作ってる子も居る。
今までは喜一君に任せっぱなしだった、ポンプに取り付けた竹パイプの手入れなんかも覚えたみたいだ。
そっちは完全に個人の器用さがなければどうにもならない。
正直言って、俺には真似出来ない。

箸の上手く使えない子がいて、子供用の持ちやすい形のスプーンの話したこともあった。
驚くことに、翌日には俺が話をした通りの物が出来上がっていたよ。
乳母を手伝ったのがきっかけで、料理に目覚めた子もいる。
まだ包丁が使いにくいのか、おかしな形の具材が膳に上がることも多いけど。
土岐の真似をして棒を振るっている子もいれば、やたらと着物とか細工物に興味を示して、普段から頭に花をつけている子とかもいるな。
最近は暇がなくて教えていなかったのに、いつの間に教わったのか、たまに数人で合唱していたりもする。

まったく、毎日が飽きないよ。
飽きる暇もなく忙しいっていうのもあるんだけれど。
相変わらず月に一度は店主達の所にも顔を出さなければいけないし、今は薬草を売り払ったりだとか、他にも付き合いがある。
もちろん子供達に勉強させるのも、おざなりにできるわけがない。
今すぐに決められることじゃないけど、将来を自分で決めて自立できるようになるまでは俺に責任がある。
それまでは、せいぜい頑張ることにするさ。





最近、特別に始めたことって言うと、メダカの飼育がある。
前々から考えてはいたんだけど、特別に差し迫っていなかったというか、他にやることがあったから手を付けていなかったんだけれど。
あまり気が進むことではないが、いつまでも受け売りの知識だけでいても仕方がない。
今やっておかないと、いつか痛い目に遭うこともあるだろうし。


離れの軒下に瓶を並べてメダカを飼育する。
それだけ聞けばなんのことはない、子供の戯れで終わるんだが。

俺がメダカを飼育する理由はそんな理由じゃない。
以前から気に掛けていたように、薬草の毒性を確認するためだ。

別にわざわざ毒を垂らして致死量を調べていたりするわけではない。
だが、普段使っている外傷の治療に使っている類や、解熱辺りの薬草と他の薬草は違う。
使用頻度の高い薬は、必然的に色々な人の間で飲まれているので安全性が保障されている。
ある意味、人体実験である。
言い方を取り繕えば、実体験で知っている、ということになるが。

だが、普段はあまり使われない薬草の類だとそれが適用されない。
たとえどこかで誰かに使われた薬だとしても、書物に薬と書かれていてもだ。
基本的にこの時代、医療も師弟制を取っているので実際の師弟や、繋がりのある者同士の間でしか情報のやり取りが行われない。
なので、もし薬と言われている物の中に毒性を持つ物があったとしても、その情報は広まらない。
滅多に使われるものではないもの故に、実体験で話が広がることもないのだ。

今まではちょっとした切り傷や、解熱、もしくは滋養を付ける薬湯位しか薬を使わなかった。
けれど、いつまでもそれで良いわけがない。
いつかはやらなければいけないことだったのだ。


まあ、やっていること自体は簡単だ。
メダカを何匹かずつに分けて飼育して、餌に薬を一定の期間混ぜる。
それだけである。

人間とメダカとは違うが、さすがにネズミや兎、犬猫を使うよりは気が咎めない。
まあ、気分の問題でしかないのだが。
やっていることには変わりはない。

もし変化が出るようならその薬は極力使用を控え、その薬を処方したことのある医師に話を聞く。
もしくは再度別の動物で効果を確かめられるまでは、使用しないことにしている。
いや、使用しないとは言っても、実際まだ使用するような事態には縁がないんだけれども。

まあ、人間に処方することになった時に誤解が残っているよりはましだ。

特に結果が顕著に出たのは、強壮系の薬や免疫系の薬である。
毒も少量なら薬になるとはよく言ったものだが、この系統の薬?(すでに薬なのか毒なのか)を試している時が一番死亡率が高かった。
しかも、完全に毒ならまだしも。
逆に弱ったメダカに、ほんの少量与えると効果が出たりするから性質が悪い。
これに関してはいつか体の大きい動物か、経験豊かな医師の経験を頼るしか手がない。

さすがに、メダカとはいえ、生き物がぽろぽろと死ぬのだ。
しかも、どちらかというと毒殺である。
子供にやらせるのは寝覚めが悪いので、メダカ瓶の近くは子供達は立ち入り禁止である。
俺一人で作業を進めようと思っていたのだが、彦だけは何を言っても退かず、共に実験を繰り返している。
情緒面に影響が出なければいいんだが。


落ち着いたらまた連絡します。

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