HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 41

やあやあ久しぶり。

最近忙しくて仕方ないね、手伝ってくれ。

相変わらず、俺の周りは子供の声で溢れている。
何でこうなったのかと言うと、どこでどう繋がったのか。
俺が想像も付いていなかった所で事態は進んでいたみたいだ。

子供の付き合いっていうのは案外深い、という事なのか。
いきなり増えた顔ぶれから、我に返って説明を求めれば、話は簡単だった。

いきなり消えた友達を探していた連中と、置いて来てしまった友達を気にしていた子供達。
彼らが出会って、そのまま俺を頼ったというだけの話だ。
まあ、急なことで驚いたが、俺のすることは変わらない。
人数が増えてしまっても、結局は、とりあえず拾うのだ。

折角、資金や生活に余裕が出てきた所だったのに。
などとは言わないで欲しい。
喜一君の微妙な顔や、彦の引きつった顔。
おそらく単純に子供が増えたことに喜んでいる乳母の顔。

それを横目に見つつも、俺の脳裏にもちらっと浮かんだ言葉だ。

わざわざ苦労を背負い込んでるのは、俺だって自覚してはいる。
だが、ある意味仕方ないのだ。
彼らを放っておいて、俺だけ贅沢に暮らしても意味がない。
自分だけが良ければいいなんて言い切れるほど、悪人に成りきることができないのだ。
だったら、全員で笑って暮らせるように努力するしか道はないのである。



そんなこんなで、またもや人数の増えた養い子達ではあるのだが。
もちろん、そんな大所帯で、いつまでも離れで暮らす訳にもいかない。

何しろ、元々そんなに大人数で暮らすことを前提に作られていないのだから。
一つの部屋にまとめて何人か寝せても、手狭なのは否めない。
ましてや、ただでさえ時間の掛かる風呂なんて、言うまでもなく。









さすがにこれは限界だと思った俺は、心機一転、場所を移すことにした。

屋敷から少し歩き、川沿いに下った場所にあるそこは、昔の船着場跡。
川を下ったとは言っても、屋敷と同じ様に、山すそに沿う様に川が流れている。
以前は、こちら側でも山から切り出した材木を一旦ここで集めて加工し直したり、船毎に積み直したりしていたそうだ。

こちらは屋敷から町へ向かう道とは、また違った方向になる。
今では通る人間も、山に入る猟師等しかいない。
使われなくなって久しい今となっては、単に広く開けただけの場所でしかなかった。
当時の名残として、古い井戸と広く取られた道が残っていることだけが、唯一残っている物だった。
だが、屋敷からあまり離れると、俺が様子を見に通うことが難しくなる。


他に適当な場所もなかったということもあるが、俺はそこに彼らの住処を作ることにしたのだ。
わざわざ作らなくても、建物があれば良かったんだが。
生憎とそんなものはなかった。
貸家を求めると、どうしても町まで行くことになってしまう。
普通の貸家では皆を住まわせることはできても、薬草の保存や作業場所なんかが足りなくなる。
かと言って、いくつか借り受けるにしても、今度は間取りが邪魔をして作業効率を下がらせる。
何にしても、広い場所が必要だったのである。

それにわざわざ一から作るなら、通常の家の形式をしていなくても良い。
親の存在しないここでは、両親と子供達の住む形の家なんて作れないんだから。

正面から門を入ると広い中庭。
ここは木を植えたり、花を植えたりはしなくていい。
ただの広場であってくれた方が役に立つ。
日の光がたっぷりと入るここは天日干しにも使えるし、集まって遊ぶことも、朝は体操をすることもできる。

その奥に、長屋を二つ積み重ねた様な形状の建物。
向かって左に薬草加工や、勉強に使う為の別棟。
右にも、集まって食事をしたり、小さな子が遊べる様に作った別棟がある。
さすがに、子供が多く済むので調理場と風呂は近くにまとめてある。
火の扱いが一箇所で済む様にだ。

子供達はやはり、高い所の方が楽しいのか。
部屋は二階に固まっているが、空いている部屋は俺が泊まったりする時に使ってもいいのだし。
それぞれの棟の裏手には、ちょっとした広さの畑が。
ついでに、離れで飼っていた鶏も連れて来た。

栄養は成長期の子供にこそたっぷりと摂らせるべきである。
さすがに、野放しにして畑の新芽を食べられてはひとたまりもないので、柵で囲って小屋に入れるようになってはいるが。

風呂と向かい合うように配置した調理場は、食事用の棟との連結部分にも面しているので運ぶのにも手間が掛からないようになっている。
ついでに、両方から出た蒸気は、パイプの切り替えで二階との隙間の中二階を通ってから外に出すようになっている。
それほど効果の高い仕掛けではないかもしれないが、冬場なんかは1度暖かいだけでも幸せだ。




しかし、仕方なしに建てた物だが、せっかく余裕の出てきた俺の懐はスッカラカンである。
いや、まったくないわけではないけれど。
食事や雑費なんか、生活に必要な費用を考えると他に資金がないのである。
しかも、かなりの金額を職人の人達の好意で割り引いて貰っている。
高草履の件で、職人さんにツテが増えていて良かったと真剣に思ったよ。
彦の名前を出した事で、かなり得をした。

一時期、懐は暖かいが使い道がない、なんて言っていた頃が懐かしい。
自分達が薬に詳しいので、医師の世話になったりとかは滅多にないが、それだけが救いである。
金がなくて熱を出した子供にどうしてやることもできない、なんてことはよっぽどの重大事じゃないと起こらない。

しかし、採取した薬草で半分とは行かずとも、何割か賄っているのである。
相も変わらず、自分の力不足にちょっとへこみそうになった。





一度拾ってしまったのが運の尽きだったのだと諦める事にして、出来る限り居心地良く過ごせる様にと建てたこちらの屋敷。
屋敷と言うよりは、主人がいないし、子供達が主に住んでいるので、まるで寮である。

乳母や喜一君に仕込まれたので、料理もできるし、ポンプの手入れなんかも自分達でやっている。
本当なら子供達に労働はあまりさせたくなかったのだが、これは本人達が嫌がった。
拾い主である俺の家人である乳母と、喜一君以外の大人にはまだ慣れていないのだ。
あまり気の進むことではないが、ここに住むのは子供達だけになっている。

そのうち慣れてくれれば良いのだが。




まあ、なんだかんだ言っても。
結局物事はなるようにしかならないのだ。

気に病むだけ損である。
彼らが落ち着いてくれるまで待つしかない。

思わぬ増員で、場所を移さなくてはならないことにはなったが、ただ彼らがしっかり育ってりっぱな大人になれれば良いのだ。

そうすれば俺も、何も気に病むことなくのんびりと暮らしていられる。








そう考えていた頃だろうか。
かすかに銃声が聞こえた。

猟師連中には、まだここのことを知らない人間もいるのだ。
うっかり間違えて、子供達が撃たれでもしたら大変である。
なおざりにしておけるはずもなく。
きっちり声を掛けてこの辺りで銃を撃たないように頼んでおく必要がある。

今度からここに越して来ました、これからよろしく。

ある意味、引越し直後の挨拶参りである。



落ち着いたらまた連絡します。

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