HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 42

やあやあ久しぶり。

子育て中です、羨ましいだろう。


猟師の人達に注意を促す目的で山に入ったはずなんだけど。
何故だか、怪我をした猟師さんを保護したよ。

うっかり他の人の仕掛けた罠に掛かったんだって。
怖いねえ。

猟師の罠っていうのは、大抵もっと奥深い所にしかけてある物のはずなんだけど。
現代と違って山菜や薪を取ったり、木こりや、俺達みたいに薬草を取ったりする人達が結構山に居るからね。

そういうのに掛からないように、山の深くで猟をするはずなんだ。
やむを得ずに里近い所で罠を仕掛けるときは、周囲に印を付けておいたりね。
けど、この猟師さんは運悪くそれを見逃してしまったみたいなんだ。
本当、運が悪かったんだか良かったんだか。

怪我をしたのは運が悪かったけど、見つけたのが俺だったから運が良かった。
すぐに怪我の治療をすることができたからね。

まったく、本当に。
俺がたまたま気付いて良かったよ。



俺が見つけた時には、近くに倒れた狼の死体と一緒に、脂汗を掻きながら唸ってたんだから。
まだその時は弾があったから良かった物の、弾が切れたり夜にでもなったら聞くも恐ろしい。
美味しく動物達の腹の中である。



まあ、そんなこんなで仲良くなった猟師さんとそのお仲間さん達。
彼らとは良くして貰っている。
よく狩りの獲物を携えて来てくれる彼らには、子供達も慣れたのか、今は笑顔で接している。
俺達の方も、虫除け等扱いの簡単な物を中心に薬草を持たせたりしている。
持ちつもたれつ、である。

実際、彼らは里の人間というよりは山の民に近く、あまり町中に降りる事を好まないので上手くやっている。
いくら薬食いと称して、肉を食べることを公然と黙認していても。
やっぱり表で堂々とできるわけじゃない。
当然、それに関わる彼らもあまり表にでることを良しとされない。

小さな村とか、生活の一部として狩りを受け入れているならともかくとしてだ。
この時代、俺には話を聞いても受け入れきれない拘り事が多い。
迷信深いのと頭が固いのとは違うと思うんだけれどね。


ちなみに、俺が関わっている宗教的なものといえば。

「米粒の一粒一粒に神様が住んでいる。だから一粒も残してはいけない」
という、幼児の躾に使われる、例の文句くらいである。
現代日本で育った俺としては、アニミズム、あらゆるものに精霊が宿るという八百万の神々に近いその文句位しか馴染みがない。

まあ、生命を貰って生きている分には違いがないのだけれど。
正直、米一粒一粒の中に七福神に出てくる爺さん辺りがいると想像すると食えなくなる。
米の神様は、姿形がないのが一番だ。

おかげでいつも美味しく飯が食える。





子供達の食事は当番制である。
あまり小さい子は無理だが、できるだけ自炊させることにしている。
始めは俺も誰か雇うしかないかと思っていたのだが、子供達の希望で自炊させていた。

しかし、案外自分達だけで器用にこなしているのを見て思い直したのだ。
覚えられる事は覚えておいた方が良い。
出来ないよりは出来た方が何かの役に立つかもしれないし、それが何であれ、自分で出来ることは自信に繋がることでもあるし。


川辺に敷いた風呂敷の上で、いびつな形の握り飯を囲む。
最近では、子供達の父親のような心境になりつつある俺である。
いびつな形の物でも十分嬉しいし、微笑ましい。

当番の子を褒めちぎってやった後、努力の結果の垣間見える料理に手を伸ばす。
そうして、養い子の手料理に舌鼓を打っていた俺の視界に黒い物が映った。
そちらにいるのは、川べりで作業中の子供達だけのはずである。






改めて目をやると、そこにいたのは水に濡れて黒っぽくなった物体。

この前拾って来た子犬と、子犬に裾を引っ張られて川に落ちた寅の姿だった。



最近は武芸の稽古に励んでるって聞いてたんだが。
そんな所で何してるんだ、寅よ。



落ち着いたらまた連絡します。

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