HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 45

やあやあ久しぶり。

ドライヤーってすごく便利だよね、そう思わないかい?


いや、さすがにドライヤーの作り方は知らないから作れないけどね。
けどね。
だんだんと寒くなってくる気温をひしひしと感じると、文明の利器が恋しくなることもあるよ。
下手に風呂を作ってあるから、髪も洗わないと気が済まないしね。
俺に育てられてしまった子供達も同じみたいだ。
なので若干寒くなってきた最近は、風呂上りに皆で集まって髪が乾くのを待っている。

風呂の二階に作られたそこは、子供達の発案で作ることになった部屋だ。
夏場に一気に作ったから失敗してもまったく問題はなかったんだが、俺の心配を余所に、高品質な部屋が出来上がった。
夏なら最悪、水浴びでも、壁がなくてもいいよな、とか考えてた自分に反省した。
俺の思っていた以上に、立派に育ってくれているみたいです。
しかし、案外これが、寒い冬を過ごす頃になると、とても有用だと気付いた。



風呂のすぐ上だから、当然すごく暖かい。
今の時期なら、風呂上りにしばらくそこに留まれば髪が乾くまで冷えることもない。
最近、風呂に体の温まる薬草水を混ぜているので余計である。
さすがに、もっと冷えたらそれだけでは間に合わなくなるけどね。
真冬になったら、火鉢でも置けば良い。

火鉢といえば、食堂に使ってる広間にも備え付けの火鉢が付けてある。
時々、直火で調理してその場で食べるのに使ったりしてて、結構重宝してるよ。
冬になったら網と布団を被せて、掘り炬燵にもなる。
けど、動きたくなくなるから諸刃の剣だ。

離れにもここみたいな部屋を作れればいいんだけど、さすがに離れの風呂に二階はない。
火鉢を置いた部屋に篭って髪が乾くのを待つしかないのだ。
せめてと思って掘り炬燵だけは置いてある。

寒い時期になると、髪を乾かすのがこっちの方が楽な関係か、乳母以外はこっちにきて風呂を使っている。
水仕事の労働がかなり軽減されたおかげで、乳母一人の為に風呂を沸かすのも問題はないのだ。
問題はないんだが、髪はさすがに乾きずらい。
けど、離れの家事を引き受けてる乳母からしたら、思う所もあるんだろう。
さすがに面と向かっては言えないが、乳母もいい年になることだ。
今年の冬になる前にはどうにかして、髪を乾かせる位にした部屋を作るつもりである。







のんびりと髪が乾くのを待っている俺の腰がつつかれる。
小望(こもち)だ。

拾って来た時は俺でも抱えられる位小さかったはずなのだが。
今では俺では持ち上がらないくらい立派な犬に成長していた。
特に寒い晩なんかは添い寝してくれる小望のおかげか、最近は熱を出すことも少なくなっている。
天然の湯たんぽだ。
しかも毛皮付き。
ただでさえ手触りの良い体の中で、先が少し太くなったしっぽが俺のお気に入りである。
ぽふぽふと手でつかんで感触を楽しむのにもってこいなのだ。
小望は良い子に育ったので、そのくらいじゃ怒らない。

いや、良い子っていうのは弱いと言う意味ではないけど。
以前、道を失ったのか迷い出てきた猪とガチンコで喧嘩してた。
あれは本気で驚いた。
俺の知識では、猪狩りって、数匹の犬で追わせて、銃で止めを刺すものだった。
なのに小望は一匹で勝利したのである。
この時代の犬って、ものすごくアグレッシブだと思った瞬間だ。


ちなみに小望はその時の喧嘩で、左目の下に傷を作った。
雄としては、貫禄がついていいかも知れない。
だが飼い主兼親としては複雑な心境である。

彦は大笑いしていたし、土岐は小望を褒めていたが、怪我をしないのが一番嬉しいのである。

内心複雑な思いで小望を撫でる。

小望は、最近一番の俺の癒しなのだ。

乳母の里の風習であるという、五歳の祝いを終えてから、土岐が食事を共にしなくなった。
以前一緒に食べていたのも俺の我侭だった。
さすがに、分別を付けるべき年になったということだろう。
だからこそ、この辺りでは馴染みの薄い行事の話を口にしてきたのだろうし。

以来、離れで取る食事は彦と二人っきりなのだ。
少し寂しい。





彦の部屋も、玉兎寮に用意してある。
けれど、俺が食事の時に一人を嫌うことをわかっているからか、彦があちらに泊まることは滅多にない。
大抵は俺に付き合って離れで寝起きしている。

考えてみると、彦が俺の傍を離れることはあんまりないな。
彦もそうだし、小望もそうだけど、人見知りなのかね?

傍を離れるのは、仕事関係でどうしても出向かなければいけない時位だ。
高草履から始まって、薬草水を売り出した時には想像もしてなかった。
今では玉兎寮は、謎の組織みたいになってしまっている。
別に後ろ暗いことをやってるから謎なんじゃなく。
組織は組織だけど、具体的にやってることを表現できる名前が思い浮かばないっていうか。
実際作ってるのは、ほとんどが薬草関係や薬草水だし。




まあ、子供達を集めてる寮自体は、里から離れていることもあって相変わらずなんだが。
変わったのは町での立場かな?
呉服屋の店主を通して商品を出し、勝手に商品を売って貰う形でやっていた。
子供達の集団に名前を付けたのもこの頃か。

最近ではなぜか、彦=玉兎と認識されてるみたいだ。
まあ、俺が付きっきりで一番色々教え込んだのは彦だし、連れ歩いていたのも彦だったから。
他の子供達に比べても、一番俺に近い知識があるしね。
必然的に玉兎寮のトップとして彦が動いていたから、いつのまにか混同されたらしい。

本人も気にしていないみたいだし、仕事の時の名前だと思って諦めるしかない。
ああ、それで、町での仕事だけど。
資金に余裕が出来て、調子に乗っていたのか。
うっかりと適当なアイディアを口に出したおかげで、玉兎寮プロデュースによる町興しが起こってしまった。
スポンサー兼、アイデア提供、みたいな感じか。
はっきりとした形があるわけじゃないが、影響力だけは甚大だ。
なんせ、ノリノリになった彦達によって、町は一大観光地になってしまった。
一度開拓して縮んだ町という特異性もあって、新しく建物を増やすのは、この周辺に限れば容易いのである。



ここは良いトコ、一度はおいで。
一晩浸かれば玉の肌、一月浸かれば若返る。




そんな謳い文句が浮かんでくる位、なにかとご婦人方に人気である。
俺としては、温泉テーマパークを考えていたんだけどね。
川から直接引き込んで沸かされた、各種様々な風呂は、湯治目的以外の一般の客も引き寄せて今日も盛況である。


落ち着いたらまた連絡します。

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