HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 46

やあやあ久しぶり。

寅が元服したよ、祝ってやってくれ。

なんか色々長い名前になったらしい。
正直言って、覚えられん。
普段から呼ぶわけでもなし。
寅のままでいいじゃん、とも思うけど。


でもさすがに、公の場で幼名で呼ぶのは都合が悪い。
普段は嘉実(よしざね)って呼んでれば問題ないみたい。

考えてみれば、寅、ああ、もう嘉実って呼ばないといけないな。
嘉実の元服で、かなり久しぶりに「武家の次男の白兎」として表に出たよ。
もう随分と前だから、俺の覚えてる顔もいないだろうね。
俺が離れに移ってから父上も出世したらしく、随分と屋敷が立派になっていた。
心なしか、人も多くなってる気がしないでもないような?
覚えてるのは数年前の記憶でしかないから確実ではないけど。
っていっても、俺が出入りしていたのは父上の部屋だけだったから当然なんだけどね。
他の場所なんて、引越ししてから見てないし。




いきなり呼び出されたから何かと思ったよ。
と言っても、最低限しか出てないんだけどね。
元服の儀?だっけ。
それの最中はさすがに、その場にいる様に言われてたけど。
実際は、きりが良い所で退出させて貰った。
小さい頃、熱ばっかり出してたのを気にしたらしい。
最低限だけで、あとは免除してくれた。


おかげで堅苦しいことに関わらないで済んだよ。
いやあ、厳つい顔のおじさん達に囲まれるって嫌だね。
俺が離れに篭りっきりだったせいで、顔をきちんと合わせたのは初めてになる。
物珍しいのか、それとも俺の気にしすぎか。
まだ俺の身長が足りないせいもあるけど、息が詰まってしまう。

母上の目付きも、俺が疲れた原因の一つである。
人に悪意を持たれるっていうのは、あんまり良い気分じゃない。
血の繋がりがあれば余計にね。

最近、母上には無視されるか、たまに出会っても、睨まれるか嫌味を言われるかのどれかしか対応されてないな。
母上の性格上なのか、正面から喧嘩を売ってくるようなことしかしないのが救いである。
周りの人間まで巻き込むようなことになったら、さすがにどうにかしなくてはいけない。
今の所、大丈夫みたいだ。

まあ、母上としても、俺がその程度で泣いたり落ち込んだりしないから余計に腹が立つんだろう。
だが、俺から見ると子供を相手にしている様なものなのだ。
真っ向から対抗する気も起きないし、どちらかというと生温く見守っている感じだ。
大人が子供に喧嘩を売られても、怒ったりしないというか。

そのうち、飽きてやめてくれればいいんだが。









これから、寅は嘉実として、父上の補佐をしていくらしい。
お勉強期間だね。
まったく、長男っていうのは大変そうだ。
家が栄えてても衰退してても、どっちにしても当主っていうのは仕事が多い。
どちらにしても、これから嘉実は大変だ。

そういえば、最近町に人が増えたりして活気が出てきたのが原因でもあるのかな。
町が栄えれば、当然その町の重要度は増す。
町が重要になれば、必然的にその土地に根付く武家も重要になってくる。
自分達が属している周辺地域の治安は、当然、家の評価にも繋がってくる。
あそこの家は周囲を抑えることもできぬ、なんて話になったら良い笑いものだし。
かと言って、こればっかりは新参者を連れて来てすぐ済むものではない。
町に暮らす一般庶民と繋がりのある、その土地に根付く家が適任なのである。
この周囲は、今までどちらかというと落ち目の家ばかりだった。

というか、今もどちらかというと落ち目である。
武家っていうのはなんでこう商売事に不向きなのかね。
利益を得る種は、道端にごろごろしているというのに。
下手に慣れない商売に関わろうとして、ハイリスクハイリターンの物ばかりに食いついて損をしたって話をよく聞く。

職人の保護をして利益を上げてる、父上くらいじゃないかと思う。
評価できるほど利益を上げてるのって。

竹布団が出回ってるのは知っていたけど、上役が父上だったのは彦から聞いた。
自分達が直接関われないから、商売事には名前を出さないやり方を、俺や彦から学んだのかもしれないな。
何にしても、失敗してなくて良かった。
聞いたばっかりの時は、なんで他の物も作らせないのかなと思った。
けど、あんまり手広く手を伸ばすと妬まれる可能性もあるんだし、これで良かったね。
いつまで経っても実にならない、薬草の知識と違って、利益を上げる方法はきちんと学んでくれたみたいで息子は嬉しいよ。
竹布団一本でも、俺が需要を増やし続けていたからか、問題なかったみたいだし。


他の物を作るかどうかは、竹布団の需要が頭打ちになってから決めればいいよな。
何事も、ほどほどで満足しておくことが重要である。
余裕を持って、一歩離れた所で見ていれば、事態が急転した時も落ち着いて対処をすることができる。

町が栄えたせいで収益も上がったけど、その分、物騒な輩も入り込んでくるかもしれない。
問題も一緒に増えた様な気もしないでもない。
けどまあ、その分、上手く抑えることが出来れば嘉実の評価も上がると思うし。


今度、特別に調合した薬草水でも作ってやろう。
入浴剤としては、温泉とどっちが効果があるのかは知らないけど。
けど匂いも売りの一つだから、アロマな効果があるんじゃないか?


俺にはそのくらいしかできないけど、頑張ってくれ。



落ち着いたらまた連絡します。

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