HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 48

やあやあ久しぶり。

ヘッドハンティングだよ、祝えば良いのかな?


いや、そろそろ独り立ちしてもいい年頃ではあるんだけどね。
多分。
年かさ組と同じ年齢位で働いてる子供達も見掛けることだし。
今まで寮に留まらせていたのは俺の一存でしかない。
単に俺が、庇護する対象に見える子供達を手放せなかっただけだ。

いくらこちらの時代で暮らしていても、俺の精神の基盤は現代で作られた物だから。
まだまだ庇護の必要な年齢に見えて仕方がないのだ。

彦や土岐、喜一君や乳母の話も聞いてみたんだけど、彼らは俺がなんで躊躇うのか理解できないみたいだ。
彦に関しては、俺が「子供」に対して、教育や保護をしなければいけないものだと強く思っているのを知っているので苦笑されたが。

さすがに、価値観までは共有できないからなあ。








声の掛かった子供達自身も、新しい土地に興味津々な様子ではある。
好奇心を大切にするように育てたのは俺でもある。
種を蒔いたのは俺なんだから、俺が止めるのは間違っているのではあるが。
それでも心配なことは心配なのだ。



猟師さん達の監修の下に始まった体育の時間で、玉兎寮の子供達はいつの間にやら、多少の荒事なら切り抜けられる術を身に付けていた。

山の薬草を保護して貰ったり、分布図や、特有の薬草の知識を貰う代わりに、猟師さん達から子供を預かっている。
彼らは里の人間じゃないから、きちんと教育を受ける機会ってのはないらしい。
それから、人付き合いの苦手な猟師さんの代わりに、獲物を売り払ったりとかね。

力仕事がどうしても入用な時とか、人手を出してくれたり、時折、講師のように子供達に薬草を教えてくれたりするのはとてもありがたい。
山でたくましく育った子供達に感化された玉兎の子供達も、彼らを真似して体を鍛えたりもしている。
日頃から薬草を求めて山野を歩いているので、もともと里の子供よりも地力があるのだ。
そこに、猟師さん直伝の小技を仕込まれた現在、子供達はかなり身軽である。
小望の子供達と山を駆け回ったりもしている様子を見て、思わず天狗かと突っ込みを入れたくなったほどだ。









そう、小望だ。
今更であるが、拾った時は小さな子犬だった小望は、今では裏山の狼のボスである。
子孫繁栄して結構なことだが、正直、始めに誰か俺に教えて欲しかった。
道理で、強いはずだよ。

聞けば、知らなかったのは俺だけだったらしい。
仕方ないのだ。
俺は狼なんて見たのは一度だけだし、その時は血まみれの泥だらけだったからまともに見ていなかった。
猟師さんを助けなければと急いでもいたし。

俺が小望の正体を知ったのは、しばらく添い寝に来ないなと思っていた時。
子供を見せびらかしに山から降りて来たのだ。
小さな可愛い子犬を心配して、狼に襲われなければ、と口にした俺に皆が伝えたのだ。
気付いていなかったのかと言われたが、まったくもって気付いていなかった。
俺が知ってるニホンオオカミは絶滅種で、ボロボロの剥製の写真しかみたことなかったのだ。
サイズもそれほど大きくないし、色も犬とたいして変わらない。
違いは、比べてみればわかる耳の大きさ位だろうか。
俺に気付けるわけがない。
ずっと犬だと思ってたよ。


小望が懐いているからか、俺達や、教え込んである猟師さん達に危害を加えることもなく。
狼達と玉兎寮の仲は良好である。
ましてや、皆で育てた小望の子供達は寮のアイドルである。
ボスの仲間は自分達の仲間ということなのだろうか。
よくわからないが、鶏を襲うこともないし、もふもふが増えて嬉しいので良しとしよう。

しかし、玉兎寮が里から離れた位置にあって良かった。
さすがに、狼が真昼間から出入りしているとあっては、里の人間を驚かせかねない。
両脇を森に挟まれた様な地形だから、遠目から見つかることも無いのが良かった。

まあ、もともとこちらに人を招待することもない。
俺達以外の人間で出入りしているのは、寅こと嘉実だけである。
ちなみに相変わらず小望との仲は悪い。
俺にとっては両方とも家族なんだから、仲良くして欲しいのだが。












嘉実や小望の話はこれまでにして、問題は子供達の就職に関してである。

待遇に関しては、あちらに着いてから直接話し合われるらしい。
不足の無いように育てたつもりだが、心配は心配なのだ。


だが、可愛い子には旅をさせるのも親の勤めである。
せめて、お守りにでもなればと、卒業の証を兼ねた白い兎の鈴を贈った。
ローマ字で俺の名前と子供達の名前が彫ってある、銀細工の可愛いうさぎさんだ。
子供達は喜んだが、俺としては嬉しさ半分、寂しさ半分。



結局、泣く泣く、子供達を送り出した。
苛められたり、お腹を冷やしたりしなければいいんだが。

元気にやってくれよ、辛かったら帰ってきていいんだぞ。

激しく心配である。



落ち着いたらまた連絡します。

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