HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 49

やあやあ久しぶり。

久しぶりに父上に呼び出されたよ、なんだろうね。


俺の方から父上を尋ねたりすることはあるけど、父上から呼び出されたりすることはあんまりなかったんだよ。
本当、なんだろう?

心当たりがあるわけでもないし、謎だ。


最近はこの位の時間は、父上は嘉実と一緒に部屋に篭って政務を教えているって聞いてたけど。
この所、嘉実が息抜きに抜け出してくることも減ったし、必然的に俺が父上の所に行くことも減った。
いや、別に不仲とかじゃなくて。
単に、幼い頃から続いてた習慣である。

薬草便[信じる者は寅ばかり]が届くと、ついでに父上に顔を出すことがいつのまにか習慣になってたからね。
ほら、別に俺、仕事とかしてないし、あんまり日にちとか気にしてないから。
おまけに、乳児だった頃の体験のせいでぼけーっと日々を過ごすスキルが無駄に高いというか。
日々、子供達と戯れたり小望と遊んだりしてると、ついつい日が経ち過ぎるんだよね。
今までは薬草便に合わせて父上の所にも顔を出してた。
なので、嘉実が勉強に追われている今、必然的に俺もうっかりと疎遠になっていたというか・・・。


うん。
ごめん父上。
さすがに親不孝だったかも。

ちょっと後ろめたい。



せめて、父上に親孝行でもした方がいいんだろうか。

でも何がいいんだろう。
肩叩きとか?
いや、さすがにまだそんな年じゃないよな。
悩む。


そんなことを考えながら父上の元へ向かった。












部屋に入ると、父上と嘉実が揃っていた。

うっかり間違えるといけないから、普段から嘉実嘉実って意識して呼んでるけど、ついこの前まで寅だったし、慣れないよなあ。

結局、呼び出された理由はすぐに判明した。
なんでか知らないけど、俺が彦の保護者だってことを内緒にして欲しいんだってさ。
別に、内緒にするまでもなく、今も知ってる人は玉兎寮の人間以外いないんだけどなー。

というか。
普通思わないよ。
子供が子供(しかも年上)の保護者だなんて。

おまけに、初めに誤魔化した時の流れで人前に出る時、彦は裕福な商人の隠し?子ってことになってるし。
玉兎として過ごしてる時と、彦として離れで生活してる時は服装も違う。
回り道が面倒で、山の中を突っ切って離れに戻ってるから人目にも付かない。


そもそも、今更だけど。
彦を拾ったことだって、家の人間は知らないんじゃないか?
離れに暮らす面々はともかく、父上や嘉実、母上・・・は知ってるのかな。
まあ、改めて考えてみれば。
ほとんどの家の人間は、俺が離れの奥でニートをしてるって思ってるんじゃないだろうか。
普通に町中を出歩いてるけど、わざわざ俺が素性を言いふらして歩いてるわけでもなし。
下手したら、家の人間でも俺の顔を忘れてる人間の方が多いかも知れない。
嘉実の元服の時に顔を合わせたのも小数だったし。

俺としては別に、関わると面倒そうだから今のままでも問題ないけどね。

とりあえず。
問題ないよ、父上。


そう説明して、用件が終わったみたいだったので退室する。







礼をして、襖に手を掛ける。

途中まで開いて、そこで、嘉実用に調合した入浴用の薬草水があることを思い出した。

首だけ振り向き、声を掛ける。


そういえば、嘉実。
渡したいものがある。




そう口に出し掛けた所で、ぐらりと視界が回った。
















「兄の諱を口にするとは、お前は礼もわきまえぬのかっ!」








ああ、デジャヴだ。

さすがに今回は襖に突っ込むことはなかったものの、またもやバランスのとりずらい体勢だったため、そのまま横倒しになる。

そうか、開けた時、ちょうど俺の死角になる位置にいたんだな。
しかし、相変わらず武器は扇なんだな、とか。
甲高く響く声に意識を持っていかれそうになりながらぼんやりと思った。







結局、何をしに来たのか、母上は怒り心頭で歩み去ってしまった。

俺はというと。
俺が突拍子もない勘違いをやらかしていたことに気づいた父上に、苦笑しながら元服後の名の使い方をレクチャーされた。
正直、ややこしい。

だって元服の儀式が終わった後、父上の部屋で父上が「これからは嘉実だな」って言ってたじゃん。
だから俺もそう呼べばいいんだと思ってたのに。
もう寅で良い。
寅で。


仕方ないじゃないか。
ずっと離れで暮らしてるから、武家の格式だとかには疎くなってるんだよ。

おかげで母上にまたどつかれた。



落ち着いたらまた連絡します。

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