HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 53

やあやあ久しぶり。

子を持つと心配は尽きないものだね、労わってくれ。


寮を出た子供も心配だし、いつか巣立つと改めて確認してみると、手元に残っている子供のことも考えることが多いよ。

今まで、寮の外で仕事をする子供が居なかったわけじゃない。
町中で、高草履を売り出した店の店主を筆頭とした商人達と、薬草水関連の仕事に携わる子達も居た。
もちろん、薬草を扱うことが大元である玉兎寮の子であるわけだから、簡単な薬を渡したりして町の人と付き合いのある子も居る。
けれど、下にも小さな子が多いことを心配してくれてるのか。
外で仕事をしている子供達も決まって寮に残って、幼い子の世話をしたり、その延長で教師役をしてくれたりしていたのだ。
おかげで、建てたばかりだった時は一棟だけだった居住区が今では何棟かに増えている。

もともと、両脇を森に挟まれた形の長細い土地である。
正面こそ門で体裁を整えてはいるが、後ろはといえば、背後から川に出た方が早かったせいもあって。
なので後ろの土地はそのままだった。
それを良いことに、どんどん後ろに新しい住居が増えていった形だ。
ちなみに、いい加減風呂も広くなったので、川から水をひく形に変えた。
水道橋の原理ってすばらしいね。
途中にろ過装置を踏まえて、一日掛けてゆっくりと水を溜めているので、天候の悪さによる水の濁りは影響しない。






ああ、彦。
どうした?
橘の木?植えるのは良いけど、お前それ、薬に使うのは建前で自分が食べたいだけだろ。
橘を生で食べるのが好きなんて、お前も変わった物が好きだよな。
ああ、でも。
そういえば、薬草水の他に果実水を作るのもいいな。
果汁だと傷みやすいし、べた付かなければ薬草水や花香水以外の風呂が増やせるかも。
柑橘なら香りもいいし、町近くに植えて風景を楽しむのも良いかもなあ。
一般人を近づかせないようにして巣箱を置いておけば花の蜜も取れるし。
手が掛からない種類だったら、農村で片手間で増やして貰って運び込めば良いかもな。
食べ放題の風呂にも入れ放題だ。

そういえば、柑橘系には脱毛の効果がなかったかな。
あとで薬事棟で研究してる子達に教えてやろう。
良いネタができたって喜ぶだろうし。

ああ、頼む。
話しておいてくれると助かるよ。
店主さん達には彦が代表ってことになってるし。



女の子達も喜ぶだろうな。
さすがに、現代みたいに全身脱毛とかを気にしてるわけじゃない。
だけど、それでも毛深くて気にする子もいるだろう。
足とかは年頃になれば出さないけど、腕とかは見えるしね。





あ、もし実が手に入ったら外に出た子にも送ってあげよう。
日によっては朝晩霧が出たりする、湿度の多い山間部と違って別の土地はそうもいかない。
喉が乾燥して風邪をひくなんてこともあるだろうし。
蜂蜜漬けにすれば長持ちするよな。

最近、就職先の女の人達と仲良くなって、すごく良くしてくれてるって手紙も来たし。
甘い物なら茶請けにでもすれば、女の人も喜ぶよな。
うちの子と仲良くしてくれて、感謝感謝である。

つやつやぷるんぷるんの玉兎の子を見て、彼女達も興味津々らしい。
定期的に届けて欲しいって言われて、彦と相談したのは最近である。
丁度派遣先の土地にも割りと広い幅の川があったので、ついでとばかりに滑車を取り付けさせて貰った。
さすがに、こっちみたいに大分融通が利くわけじゃないと思って運搬方法に悩んでたんだが。
なぜか、あちらもすんなり認めてくれた。
あとから手紙が来て、土地の実権を持ってる男連中の奥さんや娘さん、果てには母親まで出てきてごり押ししたらしい。
始めに読んだ時には笑ってしまった。

さすがに、女性の美への執念って言うのはすごい。
こちらの時代では老年に入るはずの年齢の、母親世代までとは。
やっぱり、お肌が気になるのか。
なにやら感慨深い。


しかし、こちらでは大分浸透したと思っていたんだが、土地が変わるとこうも違うんだね。
いっそ、荷物を送るついでに一般にも広めて、代わりに特産物なんかを手に入れるのも良いかも知れない。
取引は、互いに得る物がある方が良いしね。

断じて、流通規模を大きくすれば帰りの荷にまぎれて、簡単に里帰りしやすくなるよね、とかは思っていない。
ほら、色々流通を作ってしまえば、ついでに仕送りの荷物を送るのも楽になるし。
荷物を送るのが目的なんじゃなくて、「ついでに」荷物を送れるなら無駄遣いにならないし、いいよね。


しかし、今の所は地道に汲んで使っているみたいだけど、ポンプもどうにかしてやりたいんだよね。
昔ながらの方法で井戸水を汲むのって大変だ。

ポンプだけ送っても、途中で破損する恐れもあるし、井戸の深さや規模なんかで調整しないといけないから厳しいんだよな。
全部同じ形なら、あっちで職人を探して作って貰う事も可能なんだろうけど。
けど、実際は調整が必要な上に、素材がそれほど頑丈じゃないから使ってる最中も頻繁に調節したり、部品を変えてやらないと使い物にならない。

なんせ、素材がほとんど竹だからね。
取り付け直して戻すにも、サイフォンの原理だとか、真空だとかを理解してないと上手く動作しないし。
正直、玉兎寮の人間が手入れをしないと長期間の使用はできないのだ。
作るだけなら喜一君もできるけど。


ああ、今はそれは関係なかったんだ。
とにかく、水汲みを楽にしてやらないと風呂も大変だと思うし、早めに解決してやらなければ。
途中の河川に滑車を設置したりする都合もあることだし、ここは喜一君にお願いするしかないかな。
職人同士の取り決めとか、世の中のルールを一番良く知っているのは喜一君だったりする。
さすがに、世間知らずの乳母を除けば最年長であり、年の功なのか、彼はその辺の知識が豊富である。

喜一君にその辺の確認を取って、それから、ポンプについては細工の得意な子に行って貰おう。
出先の子供を増やすことになるけど、一時的な派遣だから大丈夫だよね。
遠くでお仕事がんばってる家族の為でもあるし、少し協力してあげて下さい。
ちょっとした旅行だと思えばいいよね。



落ち着いたらまた連絡します。

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