HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 55

やあやあ久しぶり。

子供達から土産が届いたよ、羨ましいだろう。


就職した子はともかく、ポンプの取り付けに送り出したはずの子供達まで帰ってこなくて心配してた。
別に夜も眠れないってわけじゃないけど、気に掛けてたんだよ。

ところが、俺が心配していることを察したのか。
子供達から荷物が届いたのだ。
正直言って、かなり嬉しい。

現代と違ってこちらでは、そう簡単に物を運んだり旅行をしたりとかできないから。
他の地域からの物って結構珍しいんだよね。
生活必要物資って言うか、塩みたいに、生活するのに必要な物なら流通してるんだけど。
生活に無くても困らないものとかは、案外手に入らないんだよね。
量を運ぶには馬に積んでえっちらおっちら歩くか、船に積むしかないんだけど。
両方ともそんなに量が運べないから、やっぱり高いんだ。
自分で出した船で無い限り、間借りすることになるから、運ぶ費用も掛かるしね。


そんな中、なんで荷が届いたのかと言うと。
無事に派遣先の土地までの流通ルートが確保できたからだ。
今回のは、第一陣ってことだね。

この辺ではあまり生えていない薬草や花の種、玉兎寮の子供達や俺へのお土産なんかがぎっしりと詰まっている。
そしてその下には壷。
実はこれが俺への土産だったりする。




別に、特別な物だったってわけじゃない。
中身は、単なる油だ。

ずいぶん前になるが、マヨネーズの失敗作を作って以来、暇と材料を見つけては何度か作ってはいたのだ。
しかし、未だに成功した試しはない。
失敗作のマヨネーズも山椒や唐辛子を混ぜた上で魚の燻製に塗って、焼きながら重ね塗りしつつ、きちんと食べている。
それはそれで食べられないこともないんだが、いかんせん、その使い方だとマヨネーズである意味がないのだ。
正直、卵の旨みがあんまり生きていない。

配合を変えたりして試してみてもどうも上手くいった試しがないのだ。
ちなみに、たまたま多く作りすぎたマヨ魚が余ったせいで、熟成期間を置くと良いことも判明した。
それだけが得られた進歩である。


マヨ魚をほぐして混ぜ込んだ握り飯は寅の好物であるが、あんまり正直に喜ぶことが出来ない。
なぜなら、俺の心情的には、まぎれもなく失敗作だからだ。
食べ物を粗末にしない精神から、きちんと食べることにしてはいるものの。
マヨネーズが食べたい俺としては複雑な心境である。

何度か配合を変えて、さらに何度も味見を繰り返し。
これがなかなか上手くいかないのだ。
実は、この時代の油は臭い。
それは、庶民の使う魚油だけではなく、菜種油もそうなのだ。
精製技術が未発達なのか、それとも単に未熟なだけなのか。
独特の青臭さがあり、それが失敗に繋がっている。
現代で普通に使われている油は、匂いも不快な味もしないように高度に精製されている。
名前が同じでも、同じ味と匂いだとは限らなかったわけだ。
おかげで、できるだけ油臭さを抑えた配合で作っても、マヨ魚のように火で炙って食べない限り青臭さが鼻についてとても食べれない。
あれはあれで、油だけで料理の調味料として使えるくらいなのだ。
マヨネーズにすると味が立ち過ぎていて使えない。

他にもいくつか試してみてはしたのだけど。
やっぱりどれも癖が強くて、なんだか類似商品ばっかり作っている気分になってしまった。
精製後の菜種油も使ってはみたが、やはり現代の精製技術には適わないのか、少し鼻につく味になった。
えごま油辺りはもっとだめだ。
撹拌しているうちに臭いも少しは薄れる物なんだが、臭いがきつくて口に入れる気にもならなかった。
あれはだめだ。
さすがにあれは俺も捨てた。

他には猪に鹿に、変わった物だと馬に鯨。
どれもマヨネーズには向かない。
ちなみに、動物性の脂で作ったマヨネーズは魚には合わなかったので、炒め物に化けた。
一番美味しかったのは鶏の油で作った物だったが、さすがにそれは量産できない。
日持ちしないだろうし、普段から超え太る待遇にいるわけじゃないからそれほど油が取れない。


前回ではごま油を使ってみたが、それも予想通り。
さすがにごま油である。
主張が激しい。
あれはあれで美味しかったが、あくまで派生品だ。


今回、俺に送られてきたのは綿実油(わたあぶら)と言うらしい。
この辺ではまだほとんど流通してないが、もっと南。
それこそ、玉兎が支店を出した辺りでなら手に入るらしい。
子供達は、時折性懲りもなくマヨネーズに取り掛かっては、失敗して落ち込んでいる俺を見てこれを見つけてくれたらしい。
小さな気遣いが染み渡るよ。












もう何度目になるのか、油の味は極力抑えて、卵の味を引き出す最善の配合で材料をそろえて行く。
一つの器に入れれば、あとば油を混ぜ込んでいくだけだ。
ちなみに、手軽に混ぜられるように喜一君が歯車式の手回しミキサーの様な物を作ってくれた。
相変わらず細かい細工の得意なやつだ。
ちなみに、それが出来上がるまでは土岐と彦と喜一君、それから手の空いていた子供達が交代で混ぜてくれた。

ごめんよ、みんな。
貧弱でチビの俺を許してくれ。

いや、子供だから仕方ないんだが。



しかし。
食用としても使われると手紙に書いてあったが、とても美味しそうには見えないのだが。
今度は上手くいくだろうか。
実の色がそのまま付いてしまっているのか、赤黒く濁った油なのだ。
手紙を見る前は、酸化してしまったのか、それとも薬草と混ざって化学反応でも起こしてしまったのかと心配したほどである。

さて。
至って普通のマヨネーズの材料なのに、もともとの油のせいで熟しすぎた蜜柑みたいなマヨネーズができた。
今までみたいな類似品か、普通のマヨネーズかと聞かれると、見た目からしてすでに類似品である。

であるのだが。
それは元々の色なので仕方がない。
作り終わったマヨネーズを前に、ため息を一つ。
空の壷に移し変えて蓋をする。
果たして、味の方はどうなんだろうか。


落ち着いたらまた連絡します。

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