HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 56

やあやあ久しぶり。

マヨっぽい物ができたよ、羨ましがると良い。


結論から言うと、正確にはやっぱり「普通の」マヨネーズではなかったんだが。
やっぱり、この時代で癖や臭いのない油を手に入れるのは難しいかも知れない。
さすがに俺も、油の臭いの抜き方の知識なんてないし。
俺が知ってるのはちょっとした雑学と一般知識程度だよ。

もとが赤味の強い油だったし、見た目からしてかけ離れてるしね。
しかも、皮肉なことに、見た目が遠い物が味的には一番マシって言うんだから。
他の油で作った時みたいに、妙な青臭さとかエグみはないね。
ちょっとした風味はやっぱり付いてるけど、まあそれはそれで味わい深い。
見た目からしてかけ離れてるから諦めが付きやすいのかも知れないけど。





しかし、女性のネットワークってすごいね。
なぜか支店が出来てしまった地域の女性達、つまりは始めに呼ばれた子の派遣先の女性陣だけど。
彼女達から話を聞いたらしい、実家の女性陣からも声が掛かってるみたい。
けどさすがに、呼ばれてもないのにいきなり行って店を出す訳にもいかないしね。

彼女達にはちょっと我慢して貰うことになる。
支店に出入りしてる女性経由で手に入れて貰うか、支店かこちらの町に足を運んで貰うしかない。
呼ばれて行くならまだしも、いきなり出かけて行っても、土地の人間との兼ね合いとかあるし。
商売する範囲が狭いから、その分濃くて深い繋がりがあるんだよね。
ちょっと出かけて行って商売をって、農村から作物を売りに来る程度ならともかく、継続的に商売をするには地域の商人との繋ぎが必要らしい。

手順を踏まないと逆に妨害とかがあるって喜一君が言っていた。
礼儀知らずへの制裁は怖いね。
暗黙の了解で船便が使えなくなったりとか、地味な部分で塞き止められて立ち行かなくなるらしい。
仕事を引き受ける職人がいなくなったりとか。

地味なくせにダメージは大きいです、その嫌がらせ。
もし仮にそれをされたら、派遣先の子達に仕送りしてあげられないじゃないか。

そういえば、旦那さん達とも仲良くしておきなさいって手紙の効果か、きちんと夫婦円満に協力してるみたいだ。
うん、うっかり玉兎の子のせいで夫婦仲が悪くなったとかって思われたら嫌だからね。
周りに愛されることが日々楽しく生きる第一歩だよ。







だけど、ここに来てまた悩み事ができた。
数日振りに送られて来た子供達からの手紙を開きながら、溜息をつく。

好きな事をして自由に生きて欲しいっていうのは本心なんだけど、俺自身が個人的に大金持ちってわけじゃない。
増えた子供達の生活費を得る為に、収入となる商品を多く作らないといけない。
だから、玉兎寮の子供達にも負担を掛けちゃってるんだよね。
お金を稼いでるって言っても、子供達に手伝って貰いながら作ってるわけで。

もちろん、俺個人のお金じゃないし、収入は寮全体の生活費になってる。
だが、寮の資金に余裕ができるのは良いけど、同時に、作業を振り分けた子供達の自由時間が減ってしまっている。

主力の資金源になっている薬草水関連は、薬学知識が必要だから下手に外の職人に委託もできない。
蒸留する薬草の効能を調べたり、勉強にもなるからそれは良い。

高草履はそもそも外注形式である。
けど、養鶏や養蜂とかは、自分達で自足する分をのぞいて委託しようかと思っている。
蜂蜜は寮の子にも好きな子が多いし、卵も新鮮な物が手に入ったほうが良いしね。



鶏に関しては、町から少し離れた所で飼育して貰おうか、現在調整中だ。
あんまり遠くだと運び込むのに時間が掛かるし、農村とかに委託しちゃうと鶏達に野菜が襲われかねない。
鶏は結構なんでも食べるから、作物を荒らす可能性もあるし、獣に襲われる可能性もある。
鶏で得られる得より、損が上回っちゃったら駄目だよね。


ただし、臭いがあるからある程度は遠い場所じゃないといけないんだけど。
糞はそのまま肥料にしてから農村に送れば、周辺で取れる野菜も増えるし、栄養のある野菜が食べられるだろう。
町から出る生ごみとかを集めて、コンポストで分解してから分けるのである。
肥料として取引される物だから、農家と直接取引をした方が利益を増やしやすい。
けど、最近増えた町の人口とかを考えると、周囲の農村には豊作でいて貰わないと困るのだ。

なんせ、もとから住んでいる人だけじゃなくて、観光で来た人達の分も賄わなきゃいけないし。
肥料として売って利益を得ていた人には、周囲の同じ立場の人間と競争する代わりに、全員同じ金額で引き渡して貰えるように交渉中だ。
協力してくれた人には、優先的に卵が渡るようにするつもり。
まあ、そういう物が多く出る立場にいる人は大抵、玉兎関連の商売に関わっているから、わりと協力的なのが救いだ。
というより、回り回って自分達の利益になることなのである。
反対はそれほどされていない。
新しい町興しのネタになるし、滋養をつけるのに最適な卵が行き渡るってことは自分達も健康に過ごせるってことだしね。


だらん、と腕を投げ出して、見上げた空は見事に快晴。
色々悩むことがあっても、やらなきゃいけないことは問答無用で迫ってくる。
ああ、今日は薬草の天日干し日和だな、と風に混じった嗅ぎ慣れた臭いに意識を逃がす。
町関係のことは彦に頼んであるけれど。

どちらかというと、養蜂の方が悩み中である。

指されたりする危険があるから、場所を選ばないと、これまたうっかりと事件発生だ。
ミツバチだからって甘く見ていると、死人を出すことになる。
それに、蜂を大人しくさせたりする技術や、収穫後も蜜蝋を取り出したりする加工が必要である。
蜜の中に毒草の蜜を混ぜてしまう危険性もある。
ある程度隔離された場所が必要なのだ。

これに関しては、現在猟師さん達のツテを使って周囲の地形なんかを調べて貰っている。
山の中なら、うっかり巣箱のある所に一般人が紛れ込まないようにすれば、関係者以外が蜂を刺激することはない。
怖いのは熊だが。
熊怖い、熊。

怖いから、巣箱は小屋の中に設置して貰うことにする。
そのまま巣箱が晒してあるよりはマシだろう。
せっかく手塩に掛けて育てて、収穫は熊に取られるとか、嫌過ぎる。
理想は山間の、人の踏み込まない辺りに花畑を作れることなんだけれど。
種類を厳選できれば蜜に種類が作れるし。

果樹とかは、収穫の問題があるし、観光名物として町に置いた方が利益が出る。
巣箱もある程度までなら、場所を移動して、花の時期だけ置くことで解決できるし。

けど普通の花なら収穫の必要はないし。
山に住んでいる人達の方が、蜂の巣に接する機会も多いから扱いも慣れている。
小屋を作る場所と、ある程度開けた場所があれば、あとは蜂の世話をしつつ花の種を撒くだけである。
里まで距離がある所に暮らす人達は収入も乏しいし、ちょうど良いかなと思ったのだ。
場所毎に統一して貰えば花の種類も一定にできるし、ついでに現金収入の手段を作ってあげられる。
山に近いだけあって、虫や蜂の巣の扱いも町の人間よりも手馴れている。
取り出した蜜蝋は猟師さん達経由で寮まで運んで貰えば、そのままクリームとかに加工できるし。

そうしたら、子供達の負担も減るよね。
子供はもっと自由に遊ぶべきだよ。

うんうんと頭を悩ませつつも、しっかりと手紙は脇に避けてからその場に転がった。
日の光が黄色いよー、とか頭の中でボケてみる。
別に徹夜したわけじゃないけど。

俺の悩みも日干しにならないかなーとかさらにボケたことを考えつつ、その後、土岐に呼ばれるまでごろごろと過ごした。



落ち着いたらまた連絡します。

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