HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 57

やあやあ久しぶり。

笑いすぎて腹がよじれた、助けてくれ。
基本体力はあんまりないから、あやうく笑いすぎで腹が筋肉痛とかみたいな間抜けな事態になる所だった。

いや、何がおかしかったって。
以前子供達に教えた脱毛剤なんだけど。

何をどうやったのか育毛剤ができた。

どうやら、効能を覚え間違ってたみたいだ。
柑橘類の白い部分は何かに効くってイメージが強かったんだけど、どうやら現代にいた頃流行ってた、脱毛ローションと混ざって覚えてたみたいだ。
朝から笑い声が聞こえるから薬事棟に出向いたら、子供達が笑い転げてるし。
何事かと思ったよ。

薬事棟に詰めてる子達は心から研究が好きな子達。
現代に生まれていたなら間違いなく学者や研究者でも選択していただろう子達である。
知識欲の塊といえば聞こえは良いけど、見る方向性を変えればちょっとした引き篭りだ。
現代みたいに電気がないから昼夜逆転十日はしてないから、朝早くから置き出してるのは普通なんだけど、研究作業が一番好きな子達がそれを放り出して笑っているのだから気になる。

勢い良く戸を開けて、うっかり粉薬とかを飛ばしちゃわないようにそうっと部屋に入ると、そこには悶える芋虫の群れ。
息も絶え絶えな子達から状況を聞きだすのは大変だった。

効果を調べるためにパッチテストをしてたらしいんだけど。
肌の一部分だけ毛が濃くなってるのって結構シュールだ。
そういえば、皮は血行を良く効能とかがあったよなと思い出したのはその時。
保湿用に混ぜ込んだだろう蜂蜜にも、毛を保護する効果があったのがさらに痛い。
見事に腕の一部だけ四角くボーボーである。
一緒になって笑い転げた。

ごめん、子供達。
正直、激しく面白い。

しっかりと芋虫の仲間入りをして、散々笑って、改めて思い出してみると、そう言えば脱毛に使うのはパイナップルと豆乳ローションだったよ。
いやあ、悪いことをした。

でも勿体無いから、それはそれで使うことにしたよ。
商人や職人の人達の中にも、薄毛に悩んでる人達はいるし。
父上……は、必要なんだろうか。
いや、予防のためにも勧めた方が良いんだろうか。
あなたの髪が心配ですって言っているようなもんだし、結構悩むよ。




まあ、父上もまだ大丈夫だから、それはさておき。
綺麗な髪が美人の条件でもあるから、案外と良い物を作ったかも知れない。
女の子用には桃を中心とした甘い香り。
女性用にはもっと落ち着いた香りを。
男性用は、薬草水をベースにしたさっぱりした香りで、整髪剤として使うことにした。
作り方は他の薬の調合と大差ないし、収入は多くあれば役に立つしね。


花香水を多く作らないといけなくなるけど。
養蜂を任せた村の人達が、ついでに花びらも収穫してくれてるから量が増えても安心である。
こう考えると、量産体制に切り替えておいて良かった。
乾燥した花びらはそれほどかさ張らないので、蜜蝋と一緒に持って来て貰っている。
しかし、今更だけど、猟師さん達ってすごく健脚だよね。
俺には無理だ。
いや、俺がひ弱なのもあるけど。
仕方ない、生まれつきもあるし、実験や子育て位を中心に生活してると筋肉の付きようがないんだ。

ああ、そういえば豆乳ローションも研究してみたほうが良いんだろうか。
パイナップルはさすがに手に入らないしな。
派遣先の子供達も、女性と仲良くしてるんなら脱毛ローションは喜ばれるよな。

うん。
豆乳ローションは優先的に作ってみることにしよう。
しばらく、育毛剤チームはローション作成に掛かって貰うことにするか。
一部だけ増えてしまった毛の償いでもあったりしないでもない。

ひとしきり笑い切った後の、妙に気の抜けた空気の中で、何とも言えない目つきで腕を見る子に失敗とかお蔵入りって言えないからとかではないよ。
腕毛を増やしてしまった子には申しわけないけど、ちゃんと実用性もあるしね。

これなら作り方さえ分かれば、派遣先に居る子達にも薬草水だけ送ってやれば現地で調合できる。
出先の子供達には豆腐を多めに食べるように言ってあるし、仲良しの豆腐屋さんくらいいるだろう。
豆乳はできるだけ鮮度が良い方がいいしね。
保存できる期間って結構短かった気がするし、流通させられるのはこの付近一帯と派遣先に作った支店中心くらい。
まあ、育毛剤は偶然できた物だし、脱毛ローションは子供達と仲良くしてくれたお礼みたいな物だからそんなに流通しなくてもいい。


大笑いしたお詫びに、一緒になって研究担当の子と新しい配合を調べていたんだけど、ドタドタと珍しく荒い足音が聞こえてきた。
小さな子がいるから、普段からうちの子達は気をつけているはずなんだけどな、と思っていたらガラっと勢い良く引き戸が開く。
慌てて調合途中の薬が風で舞わないように背でかばっていると、ガシっと腰元を持たれて引きずられる。
顔は見えないけれど、おそらく彦だ。
襟首を持たれないだけましだけど、時に俺を力尽くで引っ張っていくのは彦の癖…というか、彦しかやらない。
もちろん普段からそうな訳じゃなくて機嫌が悪い時なんだけど、あれ、俺何かしたのか。

身に覚えがないだけに、ぽかんと、それでも調合途中の薬を袖に引っ掛けたりはしないように無意識に袖を手繰り寄せながら後ろ向きに引き摺られて行く。
一緒に調合をしていた子に目を向ければ、あちゃー、と声に出して言わないだけで顔にはしっかり出している。
何が悪かったのか知っているのなら是非とも教えて欲しい。
どうやら怒りが向いてるのは俺の様だから、せめて原因くらいは知りたいんだけど。

内心結構焦りながら、ズルズルと引き摺られて行った先は中庭。
子供達が外で遊んでいる時や、何かしらの練習をしているのを見守ったりする時に俺が座っている定位置である木の下だ。
やっと止まったと思い彦を見やれば、予想より機嫌は悪くなかった。
けど、ならなんで引き摺られたんだろうと思えば、最近は日がな一日薬事棟に篭りっ放しだと怒られてしまった。

どうしても派遣した子達の事が気になってしまって、結果的にあちらで不便しない為に色々作っているわけだけれども。
子供達の性格事に仕事を振っているから確かに、研究担当の子といれば出不精になるのはある意味当然なんだけれども。
言われてみれば確かに、最近篭りっぱなしだったなと言えなくもないけれど、彦、一言言っていい?

ゲームばっかりしてないで外で遊びなさいって怒るお母さんみたいだよ。



落ち着いたらまた連絡します。

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