HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 58

やあやあ久しぶり。

最近ちょっと忙しいよ、手を貸してくれ。

最近玉兎で作ってる商品の売れ行きがすごい。
しかもなんだか、脱毛より育毛のほうが人気だね。
女の人は、脱毛に興味を示すのかと思ってたけど違うみたいだ。
脱毛に対する意識がそれほどないっていうか、個人の趣味の範疇みたい。
まあ、無ければ無いほうが肌とかは綺麗に見えるから良いんだろうけど。
一生懸命脱毛に血道を上げるってことはないみたいだ。

そのわりに、反応がすごかったのが育毛剤。
この時代、髪は女の命だしね。
男の人も、髷を結う武士とか、客商売で身だしなみに気を使う商人とかが興味を示したらしい。
以前にも育毛剤が無かったわけじゃないんだけど、もともと玉兎の薬はよく効くって評判だったから。
そこに玉兎から育毛剤が出たって事で、人気が出たらしいよ。
まさかそんなに人気になるとは思ってなかった。

毎日使うものだから結構高くつくんだけどね、あれ。
効能が血行を良くして毛髪の成長を助けて、なおかつ、すでに生えてる髪は保護するって効果だから、毎日使わないと効果が出ない。
それほど高い物じゃないけど、毎日使うとなると結構値段もね。
毛根が死んじゃってる人には効果があるのかどうかも怪しいところだし。


あんまり出回る商品が少なすぎても、不満に思われる。
新商品を売り始めてからしばらくは、子供達も手伝って貰って普段より少し増産している。
ある程度落ち着くまではね。
やっぱり体質で効く人効きづらい人がいるし、ノリで買ってみる人も多いから、しばらくすれば売れ行きも落ち着くのだ。
子供達だけに任せておくつもりはないので、俺も朝からちゃんと手伝っている。
忙しいのが落ち着いたら、ちゃんと構ってやらないとストレスの溜まった小望に顔中ベタベタに嘗め回されるけど。


日中は育毛剤担当の子達と忙しく増産中なわけだけれど、早く落ち着いて欲しいのか複雑な気持ちだ。
調合前の粉薬が山になってるのを、飛ばされないように壷に入れ直して同じ薬ごとにまとめておく。
前に出しっぱなしにしておいたら、小望の子供が舐めてヒンヒン言ってたことがあるので、安全管理は慎重に。
いや、別に劇薬じゃなかったけどね。
単に辛くてヒンヒン言ってただけ。
そんな経験をした子狼が今どうしているかというと、懲りたのか窓の外でおとなしく日向ぼっこしている。
彦に叱られて、土岐に拳骨を落とされたのが効いたんだろう。



評判を聞いたのか、あちこちから欲しいって声が上がってくるけど、さすがに近隣や支店分位しか回していられない。
他の地域に送ろうとすると、届くまでに変質しちゃって使い物にならないし。
まだまだ流通の壁は厚いよ。

申し訳ないけど、欲しい人は自分で買いに来てください。
支店ができたから期待しちゃうのかも知れないけど、あれは例外。
地元の商人の人に繋ぎを頼んで、他の土地と縁が深い人を探して貰う。
その人を介して別の土地の商人と繋いで、さらにその商人から、周りを取り仕切ってる人まで繋いで貰って、やっと商売を始めていいかお願いが出来る。
土地を借りたり、材料の入手経路だとか、その他はまだまだそれから。

普通に別の土地に出店するには、それだけ手間が掛かるんだよ。
この前の支店は、向こうの責任者である、武家が呼んでくれたから行った様なもんだし。
支店として店を構えられたのも、そこの女性陣の後押しがあったから。
だから、その人達にお礼として、一般より優先して薬草水とかを回してるんだ。
うちの子を可愛がってくれた人達には、それ相応のお礼をしないといけない。
きちんとお礼をすることも、親の責任です。




昼寝に飽きたのか、子狼が鶏をからかい始めた。
ぴょこぴょこと跳ねたり吼えたりしてみているものの、鶏の方は襲われない事をわかっているので暢気なものだ。
一緒に育てると仲の悪い動物も喧嘩しないって聞いたことがあるけど、そんな感じなんだろうか。
ぱふりぱふりと地面を掃除するように回される尻尾が何とも長閑に見えて仕方がない。



そういえば、前にお願いしてた養鶏は、結構上手くいってる。
卵もきちんと産んでくれてるみたいだし、町への運び込みもできてるから今の所は成功って言っていいかな。
おまけで取り付けてあるミミズコンポストも評判が良い。
きちんと分解してから運んでるから臭いも少ないし、栄養も高いからね。
まだ収穫は出来てないみたいだけど、大きく育ってるみたいだし、この分だと収穫も増えそうだって。
周囲の農村って、言ってみれば、玉兎の子供達の故郷かも知れないんだよな。
もしかしたら、兄弟とかもいるかも知れない。
これまで、何度か送っていこうか、手紙を出すか聞いてみた事もあるんだ。
けど、子供達はうなずかない。
捨てられた傷がまだ残っているのかも。

幸いにして、俺は前世でも現世でも捨てられた経験はない。
だから子供達の気持ちも全部はわかってあげられない。
何を気にしているのかはわからないけど、もしかしたらいるかも知れない家族の暮らしが楽になるのなら、少しは安心して過ごしていられるよな。
俺にはわからない、確執があるのかもしれない。
忘れて過ごしたほうが幸せならそれも良いのかも知れないけどな。



落ち着いたらまた連絡します。

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