HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 61

やあやあ久しぶり。

いや、あんまり久しぶりって訳じゃないんだけどなんとなく。

今は彦と喜一君と町に顔を出してる所だったりします。
目の前に居るのは、前回話をしていた薬草水を卸す大元をして貰ってる店の店主さんと、そのお仲間達。
お仲間って言っても、同じ店じゃなくて、例の薬草水の卸の繋がりの各店の店主さん達ね。
この前、ご隠居さんの所で顔を合わせた人もちらほらと居たりする。

急遽催された玉兎寮家族会議の次は、店主さんの店主さん達による店主さんの為の会議だったり。
なんせ、生活が掛かってるからすばやい対処が求められます。
噂が広がって物が売れなくなったら、困るのは俺たちだけじゃないし。
売れないと困るのは俺たちだけど、売らないと困るのは店主さん達なのだ。
店の売り物の中でも固定客が多い商品を卸してるし、もはや一蓮托生ってね。


ここに集まる前に、すでに玉兎からの連絡は伝わってるので調整と確認、それと細々とした部分の修正位しかやることはないんだけど。
別にわざわざ集まって話す必要はないってこともないんだけど、顔を付き合わせて最終確認をする理由は、各々の同意と意思確認のためだ。
皆で一堂に会して決定したことは、この場で全体の意思として決まるし、特に反対しなければ自分もその決定に従うと暗黙のうちに示していることになる。
身も蓋もなく省いて言うと、皆で決めたんだから約束破っちゃ駄目だよの会。
本当に身も蓋もないけど。

今回、横流しの件を解決する為に新たに取り決められたのは、薬草水を中心とした日持ちのしない商品の販売方法の制限。
客に紛れ込まれている限り、人を雇うなりして誤魔化しながら商品を影で集められてしまうことは避けられない。
なので、販売方法を考え直していくしかないのだ。

具体的に言うと、町の人にしか小売しません。
観光とか湯屋目当てで来てる人に関しては、店のサービスとして供される場合に限って販売可です。
わかりやすく言うと、エステみたいに店で使って行く分にはいいけど、お持ち帰りようの販売はしませんよって方針で行くことにした。
町の人に関しては、個々のお店で顧客名簿で管理して貰うようにお願いしてある。
使い切れる範囲しか売らない様にお願いしたから、買ってくれる人からしたら面倒になるけど、その辺りは正直に理由を説明してお願いするしかない。
お客さんとしても、効果のない粗悪品が出回って騙されるよりは、面倒でもきちんとした物を手に入れられる方が良いだろうし。

昨日の晩、彦や皆と考えた結果だ。
完全に抑えることは出来ないけど、特定の店でしか購入できないってイメージを確定させた方が良いんだって。
大まかな方針を考えたのは彦と喜一君だったけど。
正直、販売が制限されるとうちの取り分も減っちゃうけど、売れなくなるよりはマシだからこの方法を取るしかない。
町の人間に協力されたらその分は流れちゃうけど、薬草水の販売法が広まれば、それ以外の売り方をしているものに関しては怪しいって思ってくれるだろうという、消極的な解決策である。
今回裏で横流ししてた人達を探し出しても、同じ事を別の人達がするかもしれないし。
きっちりと管理する方法はないのだ。悲しいことに。



大まかな顧客の分配や管理体制の見直し作業なんかを話し合っている店主さん達を横目で見ながら、作るだけじゃ済まなくなって大変だなーと自分達の事ながら思った。
海千山千の店主達を相手取り、サクサクと細かい部分を詰めていく彦を見やる。
初めて出会った、というか拾ってからどの位時間が経っただろう。
こちらでの生活は、季節や行事を気にすることはあっても、特別な行事がない限り日にちを細かく気にする必要がない。
なので、時間の概念が間延びして戸惑うことが時々ある。

そもそも、彦の年、いくつだっけ…。
毎年、正月に皆でおめでとうって祝うだけだから、細かい年は気にしたことがなかった。
彦は、すでに並べば見上げなければ視線が合わないほど成長した青年になったが、未だ少年の面影を残す彦が店主達に囲まれているのを見ると、インターンシップという言葉を思い出す。
いや、玉兎は基本インターンみたいな感じで普段から勉強してるけど。


あと数年もしたら、今は見える少年の面影も消えて、大人の男になるのかもなあ。
そう、柄にもなくたそがれていたら、ご隠居が干菓子をくれた。
にこにこと、孫を見る目で見つめてくるご隠居に罪はないので大人しく受け取る。
精神年齢から考えたら、俺も彦を取り囲む店主達と並んでいてもおかしくない年なんだが、それは言えないのでグッと我慢だ。

ご隠居からしたら、この時代ですらまだ未成年の範疇の年齢である俺なんか、子犬や子猫と同じくらいにしか見えないのだろう。
早ければ元服できる年齢に近づいてはいると言っても、あくまでも早ければの話で、寅ももっと遅くに元服してるし。

もごもごと一つ口にして、今度は喜一君の方に目を向ける。
ここでは寮に居る時と違って、あんまり俺が口に出すわけにもいかない。
一緒になって話に参加してる彦には悪いけど、彦のお供として着いて来たことになってるから俺が話しすぎても駄目だし。
まあ、纏めた意見は彦と喜一君が話してくれているから問題はない。

店主達と一緒にいる彦と違って、喜一君は集められた店子達に再度管理の仕方を説明している。
いや、していた。

始めは真面目に、今回の議題である薬草水の話をしていたみたいだけど、今は脱線して別の商品の改良の話になっていた。
別に、彼らが話してる商品は薬じゃないので日持ちも関係ないし、好きに進めて良いんだが。
元来物を作ることが好きなのか、それとも俺達と一緒にいるうちにおかしな化学変化でも起こしちゃったのか、喜一君は発明馬鹿である。
手先が器用な分、思いついた物の試作品を自分で作れることが喜一君の暴走にさらに一役買っている。

寮に居る時も、工作組に分類される子供達と一緒に何かしら作っている事が多いが、それでいいのか最近少し不安だ。
そうなってしまった環境を作ったのは間違いなく俺なんだが、好きが講じてそのうち仙人にでもなりそうな心配がある。
隠棲してる普通の仙人と違って、俗世というか似たもの同士の仲間たちに関わりまくってはいるが、のめり込み過ぎなんじゃないかと最近ふと思う。
よほどのことがない限り、毎日俺と一緒に離れに帰っている彦や土岐と違って、喜一君は状況が許せば工房となっている寮の一室に泊まりこんで作業をしていたりする。
ある日突然、「今日から発明の仙人になりました」って解脱の宣言をされても喜一君なら納得できるような気がしないでもない。
仙人っていうには世俗に関わりすぎだけど。




カリ、と再び口にした干菓子を噛み砕きながら、つらつらと何でもないことを考える。
派遣に出ていた子供達も帰って来たし、販売自粛をほぼ決めて当面の心配も減ったことで、今の俺は気が抜けまくっていた。

寮を出ていた子達が帰って来てから、時々出張を頼まれることはあっても、本格的に寮を出る子供達が出ることもないし。
今回の話も、始めからある程度までしか防げないとわかってはいるのだ。
あんまり気負いすぎて、断ち切れなかった苛立ちを持て余した所で苦しいのは俺である。
適度に、ほどよく気を抜いて覚悟しておく方が良い。



落ち着いたらまた連絡します。

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