HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > 本編 62

やあやあ久しぶり。

なんか子供帰り?なんだけど。手伝ってくれ。

いや、本当に子供だけどね。大きい子もいるけど。
農村に肥料を送るようになってから、なんか子供達がそわそわしてるっていうか。
落ち着かないんだよね。後追いって程じゃないけど、始終構って構ってって感じに囲まれてる感じ。
多分、寮を名指しで頼ってくる子供が増えて来た頃かなあ?
寮に来て間もない子は元々あんまり元気がなかったんだけど、何か刺激されたのか、他の子にまで伝染してしまったみたいだ。
さすがに年長の子は町に行かないといけない用もあるし、小さな子みたいにあからさまにくっついてくることもないけど。それでも俺が寮から離れるのを嫌がってる感がある。
あからさまではないけれど、わざわざ子供達に不安を与える趣味はない。
必然的に、定期的に顔を出す約束のある場合以外は寮で子供達の相手をしてることが多くなった。

今日もそうしてあちこち刷り込みされた雛みたいにくっついて回る子達を寝かせたばっかりだ。
寝ると何が成長に良いのかは知らないけど、寝る子は育つというくらいだし、寝かせた方が良いんだろう。
基本的に、一定の年齢以下の子供は昼寝の時間を決めて寝かせるようにしている。
それでも俺の動向が気になるのか、なかなか寝てくれなかったけれど、どうにか最後の一人まで寝かし付けて来た。



じゃないと、俺も仕事が出来ないしね。
それでも大部分の時間を子供達の相手に取られているんだけど。

囲まれて身動きの取れない俺の代わりのように、年長の子達が外に出てくれている。
情けないことなんだけどさ。

販売制限をしたせいで、やっぱり収入は減るわけで。
けど、うちを頼って来た子供を突き返すわけにもいかないじゃないか。親元で暮らせないから最後の手段としてうちに来るわけだし。
まあ、別に生活に困ってないのに行儀見習いみたいな感じで預かってくれって分にはお帰り願うけどね。
うちの子達だけでも結構大変なのに、そんなとこまで面倒見切れませんって。
唯でさえ、寮に来て日が浅くて不安そうにしてる子を慰めたり、刺激されたのかくっついてくる子達を宥めるので精一杯なのだ。
だから、代わりに年長の子がお仕事してくれてる。……ちょっと親として情けないような寂しいような気もするけど、進んで手伝いをしてくれる良い子だ。

子守に時間を取られがちな俺に代わって頑張ってくれている。
大分前に知らされた横流しの件でも、各所との調整に向かってくれたのはたくましく育った我が子達だ。心苦しくはあるけれど、それに関しては心配はしていない。

食事や風呂の時に聞かされる子供達の話しや時折訪れた先の店主さん達の話によると、結局、詐欺騒ぎはある程度は沈静化しつつも、やっぱり数は少ないけど細々と流れはあるらしい。
完全には収まらないのは仕方ない。なんていっても、この時代には取り締まってくれる機関とかないし。
それでも許容範囲かなって思える範囲で収まっているから良いのだ。多分。


減った分の収入は、情けなくも我が家の健気な子供達が補ってくれた。
町で制限をかけた分の余剰分を他の土地の武家に卸しているのだ。他の土地って言っても、使用期限を保てる程度の距離ではあるけどね。
何度も言うが、下手に寮以外の場所で薬関連のものを作って真似されると後が怖い。
独占できなくなるとかそういう問題じゃなくて、偏った知識で真似をされると薬草の毒の方の効能を引き出してしまいかねないからだ。

落ち着いてから聞かされた話だが、一度支店という形で外に出ていた子供達が各地のお土産を持ち帰って来たのは、今まで取引をしていなかった武家の人達に繋ぎをつける目的もあったらしい。
自分の家の頑なさを知っている身としては、そんなに簡単に繋ぎなんて付けられるのかなとは思ったけど、どこをどうやったのか繋がってしまったらしい。
自分達で使う分だけで、販売はしないって約束で定期的に派遣組を中心とした子供達が品を届けに行っている。
なんで人に頼まないかというと、また出張エステみたいなことをしてるらしいのだ。

外に出るの、癖になっちゃったのかな。この辺じゃ買えない食材とか毎回買って帰ってくるし。

寂しい気がしないでもないけど、どんどん下の兄弟が増えるから上の子は必然的にしっかりしてしまったというか。
さすがに、彦を初め年長組はもうそろそろ俺の中の基準でも社会に出そうな年齢なのだ。
成人の年齢がもっと低いこの時代では、子供達が早熟してしまうことはある意味当然なのかも知れない。


それでもまだ心配してしまうのは、彼らを子供としての目線で見てる俺が子離れ出来ていないってことで……


俺に出来るのは、安全を祈りながら荷造りをするくらいだ。

やっとの思いで寝かし付けた子供達は今は周りに居ない。
町の外へ回る予定の子達の荷造りの準備を手伝いながら、口になりそうになった心配の言葉はぐっと飲み込んだ。
定期便をこなす子供達の出発も、もう何度も見送った経験もあるし、日々成長をまじかで目にしているというのに、彼らが外に出ると思うと不安でたまらなくなる。
昔、少し離れた地へ派遣組を送り出した時の様に、毎回毎回無様にもあれやこれやと心配しては苦笑されてしまうのだ。






途中で割れたり混ざったりしないように、念入りに蓋を点検していたら後ろから声が掛かった。
土岐だ。
最近成長期が終わりそうな兆しを見せてはいるが、それでも俺からすれば見上げるほど背が高い。
土岐は早くに成長期が来たせいか、その分早く身長に打ち止めが掛かってきている。打ち止めになっても、すでに十分高身長なのではあるが。
確か、男は二十歳過ぎても伸びると聞いたような記憶があるようなないような気がしたのだが、最近土岐は伸びていない。一時期は辛そうにしていたから、もう終わるのならそれで良いのかも知れないけど。
彦や寅はゆっくりと伸びるタイプなのか、気が付けば伸びてる様な気がする感じなので、土岐の様に成長痛に苦しめられることもなかった。
色々気を付けて食事を摂らせているおかげか、寮の外の人間よりは背が高い傾向にあるものの、土岐と比べれば全然普通である。

ちなみに俺はまだそんなに背は伸びていない。
良いんだ、きっと父上似なんだ。だって声変わりもまだなんだぞ。言ってて虚しくなった。
父上のように後からやってくる成長期なのだ。きっと。


それでも精神年齢だけはとっくに成人を越している俺としてはちょっと悔しかったので、通りすがりに訳知り笑顔で土岐の腕をぽんぽんと叩いてやった。
俺は知っている。
昨日呉服屋の主人の所に行った時、帰り際に町の子に呼び止められていたのだ。もちろん女の子である。男だったらこんな顔をしたりしない。
良い男に育ってくれたら俺は嬉しいぞ。

乳母にちらっと聞いた事がある。
土岐は縁談の話を断り続けているらしい。
屋敷に居る時は離れから出ない俺と違って、土岐は離れの方に荷物を運ぶ時なんかに屋敷の表に顔を出すことがある。なのでそこで娘を持つ父親に男振りを見初められたのか、結構多いらしい。
声は多いみたいなのに、喜一君みたいに興味が無いのか、それともすでに好きな相手が居るのか。
まだ俺の感覚では土岐は全然若いので焦ることは無いような気がするが、俺からしたら微笑ましいことに変わりはない。
何しろ、精神年齢では兄か親かって感じなのだ。
喜ばずになんとする。
微笑ましく見守ってやろうではないか。

声を掛けられても口八丁で受け流してしまう彦や、もう発明に人生を捧げている感じのどこぞの仙人と違って寅と土岐は微笑ましい。正しい青少年な気がするよ。
他にも数人、年齢的には良い感じじゃないかっていう子達もいるにはいるけど、その辺は本人達次第なのかな。





なぜ叩かれたのかわかってない風な土岐を尻目に、昼寝から覚めただろう子供達の下へと向かう。

部屋を出て廊下を少し進めば、丁度、すでに起き出していた子達がせっせと布団を運んでいるところに遭遇した。
寝起きで所々跳ねた髪が広間に敷かれた布団の合間をちょろちょろと動き回っている。
自分のことは自分で出来るように教えてはいるが、下の子の手伝いをすることもきちんとわかってくれているようで嬉しい。
きちんと片し終わるまでは、比較的入り口付近に居た子の手伝いをしてやりながら全員が片し終わるのを待った。

元々は各自というか、一緒の部屋に寝かせている子毎に昼寝の時も寝かせていたのだが、それだと寝付くまで俺がずっと傍に居てやれない。布団から這い出して来てしまう子達が続出したので、夜はともかく昼寝の時は広間で一緒に寝かせている。
ずっと見てやれないのは夜も同じだが、夜は年長の子達が見てやってくれているらしい。
俺も中身はともかく体は子供なのだ。さすがに最後の寝かし付けまでしてから離れに帰ってたんじゃ遅くなってしまうし、それ以前に熱を出してぶっ倒れるだろう。
さすがに、俺の体がそんなに強くないことを知っているので子供達も夜は大人しく寝る。

布団に埋もれていた広間が綺麗になると、集めた布団を土岐が各自の部屋へ運んでくれる。
その後は、町へ出ていた子達が帰って来たり、薬事棟にいた子達が勉強や作業を終えて帰ってくるのを遊びながら待ったり、時には小望達を引き連れて川へ向かったりする。
一世代目と言うのか、上の子達がしっかりしてからの俺の生活はもとから下の子の世話に傾いてはいたけれど、町へ行く頻度が落ちてからはカルガモのお母さんな生活に拍車が掛かってるな、俺。



でも、さすがに町へは連れて行けない。
というか、連れて行かない。

カルガモ病が流行り出した頃は、町へも連れて行ったんだよ。
交代で数人ずつだったけど。
けど、今は連れて行ってない。

間が悪かったというのか、以前町で懐かれていた子供……っていうか、俺と同い年位の子と喧嘩してしまったらしくて。
以来その子に会う度に喧嘩をするものだから、仕方なく俺が仕事で町へ行く時は留守番って約束をさせざるを得なくなってしまった。
まあ、向こうも気まずかったのか、怒らせてしまったのか、最近は姿を見せることも無いんだけど、一応ってことで。

そんなわけで、定期的に町へ足を運ぶのは数少ない俺の息抜きになっている。
ちび達を邪魔にするわけではないが、たまには子供達の動向に気を配りながらではなく、ぼーっと歩いたり自分の興味の惹かれるままに過ごす時間も大切なのだよ。
その少ない自由時間を使って俺の大いなる目的である油の入手に精を出していたりもするんだし。
いくら食べるものだと言っても、油ってそんなに安いものではない。まだカルガモを引き連れて歩いていた時に、周囲で遊んでいてバランスを崩した子にぶつかられて落とした時は心の涙を流したものだ。
怪我が無かったのは良いんだけども。
けど、また落とすのは勘弁して欲しいので、人数の居る時は買わないようにしたのだ。

そもそも、そこまで拘るなよって話ではあるがそこはそれ。
一度知った味は中々忘れられるものじゃない。
材料が揃わないのならともかく、材料が手に入るだけに諦めが付かないのだ。
それに、後付けの理由ではあるが、生野菜でしか摂れない栄養とかがあるはず。
今だって食べていないわけではないけど、小さな子にはあんまり人気が無いのは確かなのだ。
美味しく食べれるかも知れない調味料の研究には余念は無いぞ!

部屋の窓から、午後になって柔らかさを増した太陽に照らされた裏山を睨みつけながら心意気を新たにした。



落ち着いたらまた連絡します。

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