HOME > 兎穴の分かれ道 > 保管庫 > 早く隠居したい~マヨネーズを目指して~ > おまけ 兎に恋した……


「………っ!」

ビクッと身体を竦ませると、困った顔をして逃げ去っていく。

ああ、困った顔まで可愛いなんて、重症だ。

そうは思っても、それは不快でもなんでもなく、むしろ――。








「また逃げられたのか?来るもの拒まずだったお前が、良い様じゃないか。」

人の不幸は蜜の味、とばかりに、ニヤニヤと楽しそうに相好を崩した顔で話し掛けてくる。

いいさ、好きなだけ笑え、俺は今そんなこと気にもしないくらいあの子に夢中なんだ。

町の男集の中でも、特に人気のある俺だ。

女なんて選びたい放題だった。

放っておいてもあちらからやってくる。

けど、あの子だけは違った。

俺が声を掛けると、怯えた様に逃げ去ってしまう。

他の女と違う、そんな様子が逆に愛おしい。

いつかかならず、俺の女房にしてやる。

その一心で、あの子が町に来る度に待ち伏せて声を掛けているのだ。

今は逃げられていても、俺はあきらめるつもりはない。






















side兎

「また待ち伏せされてたの?あんたも可哀相に。」

まったくだ。

毎回毎回、本当に勘弁して欲しい。




私は大勢いる玉兎の人間の中でも、特に花香水の調合を得意としている。

様々な香りを混ぜて、新しい香りを作り出すのが私の仕事なのだ。

彦様や白兎様が使う花香水も調合したくらい、その才を認めて貰っている。


それをあの男、こともあろうに、自分の女房として家に入れだなんて。

ふざけているとしか思えない。

女だって、私は玉兎なのだ。

仕事を持つ矜持は男にも負けない。

それを知っている玉兎の人間は、私に同情気味である。

そして何より。

何よりあの男―――。





















「私の傍に近寄るな!臭いのよー!あの男っ!」

そう。

私が男を罵倒することもなく逃げるしかない原因は、私の利きすぎる鼻にある。

繊細な調合をこなす私の鼻には、個人差はあるものの、町の男の臭いは耐え難いのだ。

玉兎の人間は、ただでさえ普段から風呂に入るので匂いが薄い。

薬草水や花香水、風呂が広まったとはいえ、町の人間でも毎日風呂に入るまでには至らない。

特に、体質の問題なのか。

あの男は特に臭いが強い。

町の女の子達に言わせれば、男臭くて良いということらしいが。




ああ、この世界の男が全員、玉兎の兄様方みたいに良い匂いならいいのに!

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